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不動産鑑定士に1億3千万円の賠償命令(宇都宮地裁)

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不動産鑑定士に対する賠償命令のニュースがありましたのでご紹介したいと思います。

栃木県の旧氏家町が購入した浄水場建設用地が不当な土地鑑定によって高額な価格で購入させられたなどとして、さくら市が宇都宮市の不動産鑑定士の男性に1億4556万円の支払いを求めた損害賠償請求訴訟の判決が17日、宇都宮地裁であった。

吉田尚弘裁判長は、1億3100万円の支払いを命じた。

旧氏家町は用地を2億5000万円で購入したが、購入額の妥当性を巡る住民訴訟で、適正価格は約1億円と認定された。さくら市は適正価格との差額1億4556万円の損害を負ったとして提訴していた。

判決では、「男性の鑑定内容は評価基準に明確に反する」として、男性の過失を認めた。一方、男性から更地価格を7000万円程度と考えている旨を伝えられていたにもかかわらず、別の不動産鑑定士に再鑑定を依頼しなかった町にも一部過失があるとして、請求額の1割を減額した。

男性の代理人の木村謙弁護士は「適正価格とは基本的な考え方が違うだけで、正当な鑑定だった」として控訴の意向を示している。

引用YOMIURION LINE|不動産鑑定士に1億3千万賠償命令…宇都宮地裁

不動産鑑定士に1億3千万円の賠償命令(宇都宮地裁)

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場所

栃木県さくら市(旧氏家町)

事件概要

この事件は浄水場用地高額取得費違法支出損害請求事件として有名な事件です。当の不動産鑑定士は平成20年3月18日に(財)日本不動産鑑定協会(旧団体)より会員権停止処分を受けています。

鑑定士は協会より会員権停止処分!

長くなりますが、事件の概要を引用したいと思います。

Aは、平成14年3月24日から平成17年3月27日まで、旧氏家町(現さくら市)の町長であり(その後、平成21年4月23日までさくら市長)、また水道事業管理者でもあった(地方公営企業法7条但書、8条2項)。

氏家町は、人口及び給水量の増加に対応するとともに、給水区域を拡張するた
め、平成10年3月31日に栃木県知事から水道事業経営変更(事業拡張)の認可
(水道法10条)を受け、平成16年3月2日には、浄水場用地購入費3億円を含む平成16年度同町水道事業会計予算を計上している。

同町は、当時競売に付されていた本件土地が浄水場用地として適していることから、本件土地を取得する意図があったところ、同年5月19日、高根沢町で不動産業を営むBが本件土地を4500万円で落札し、その所有権を取得した。その後Bから同町へ、本件土地を7000万円程度で売却する旨の申入れがあったため、同町は、本件土地を取得する方針を立てた。同年7月6日、同町は、本件土地の適正価格を判断するための不動産鑑定を、不動産業及び建築業を営む I(Aの友人)の仲介を通じて、不動産鑑定士Cに依頼した。

同年8月10日、Cは、平成16年7月26日時点の本件土地の鑑定評価額を2億7390万円とする評価書(C鑑定)を作成し、同町に交付した。この C鑑定の評価額に関しては、その後開催された全員協議会等において疑義が呈されたものの、同年9月21日、同町と Bとの間で、本件土地を2億5000万円で購入する契約が締結され、9月30日、同町は、Bに対して売買代金の一部である2億2500万円を支払い、また翌平成17年1月14日に残額の2500万円を支払った。

引用 早稲田行政法研究会

つまりは競売でBが4500万円で落札した土地を、町が浄水場用地として購入することになった。Bは7000万円ぐらいで売りますよ。って話していたのに鑑定評価をしたら不動産の価格は約2億7400万円であった。そのため鑑定評価額で売買契約した。ということです。

競売で4500万円で落札した土地の鑑定評価額が2億7400万円

市長への損害賠償

まず平成17年12月に市内の住民が市長を対し、住民訴訟を行っています。裁判所は市長Aに対し約1億4556万円の賠償請求を行なうように、さくら市に命じました。その際、Bに対する不当利得返還請求は棄却されています。

この事件が有名になったのはその後です。さくら市議会は当時の市長であるAに対する損害賠償権を放棄する旨の議決を行います。

理由は色々と書いてありますが、市議会としてはお仲間の市長に1億円をも超える損害賠償を行ないたくはないですよね。この損害賠償権の放棄が本当に有効かどうか後々問題となり次の争いとなりました。決着はついていて、議会の損害賠償請求権の放棄は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法無効とされています。

不動産鑑定士への損害賠償

今回のニュースは市長への損害賠償請求の後に提起されたものです。さくら市は不動産鑑定評価を行った不動産鑑定士に対し、損害賠償請求訴訟を行いました。で、冒頭の結果のとおり約1億3000万円の損害賠償を不動産鑑定士に支払うよう命じました。

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まとめ

何が正しい価格なのか、不動産鑑定評価の手順はどうだったのかは正直私には分かりません。裁判所と(公財)日本不動産鑑定士協会連合会が処分を下していることから、多分おかしな評価を行っていたんでしょう。

でもなんで7000万円で所有者が売るって言っていた不動産を約2億7000万円で評価してしまったんでしょうかね。7000万円で所有者が売りたいと話しているっていう情報は不動産鑑定士には入手できていたんでしょうか。

もちろん所有者がいくらで売りたいっていう価格を知っていても、鑑定評価額はその価格に縛られるものではありません。自分が思う適正な価格が2億7000万円だと思えば、私でもその価格で評価すると思います。

でも7000万円の情報を知っていて2億7000万円の鑑定評価額を決定するのと、知らないで鑑定評価額を決定するのでは全然話しは違います。

事情はよく分かりませんが、お互い(不動産鑑定士と依頼者)が信頼した上で仕事をしたいもんですね。

(追記)鑑定士5000万円賠償で和解

その後東京高裁にもちこまれていましたが、和解となったようです。記事を書きましたので下の記事をご覧下さい。

さくら浄水場訴訟、不動産鑑定士の5000万円賠償で和解(東京高裁)

3か月ほど前に不動産鑑定士に対する1億3千万円の賠償命令についての記事を書きました この事件は不動産鑑定士側が正当な鑑定だったとして控訴されていましたが、東京高裁にもちこまれ、和解が成立したようです。 ...




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