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埋蔵文化財包蔵地の発掘調査費はいくら?奈良県桜井市のイオン出店予定地に大規模遺跡見つかる。

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埋蔵文化財包蔵地に該当することによって、大型店舗の建設が中止となるニュースがありました。

奈良県桜井市の中和幹線南側の民有地(約7・4ヘクタール)への商業施設出店を断念したイオンリテール(本社・千葉市)。理由の一つは、高額な発掘調査費 だった。だが、この土地が弥生時代の大集落跡・大福遺跡にかかり、事業者負担の発掘調査費が高額になることは、市関係者は当初からイオン側に指摘してい た。

(中略)

開発に伴う発掘調査費は、開発事業者負担が原則。遺構が複雑になればなるほど、調査に日数がかかり、費用もかさむ。現場は弥生時代の集落がある環濠内 で、そうした場所を数万平方メートル発掘する調査は過去に例がなく、実現すれば「前代未聞の調査」になるはずだった。当初見積もられた18億円という発掘 調査費は、県内で高額とされるイオンモール大和郡山(大和郡山市)建設の際の調査費をはるかに上回るという。

引用 発掘調査費18億円が壁に…イオン、奈良・桜井の出店断念で

埋蔵文化財包蔵地での建物建設に関するニュースですね。建設予定地に大規模な遺跡があるために発掘調査費用が約18億円と高額なり、結果として商業施設の出店を取りやめたという報道です。

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 場所

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奈良県の桜井市、中和幹線南側の市道大福新道から橿原市との境までの中和幹線南側約7・4ヘクタール。東西は470メートル、南北は最大202メートルの範囲です。Googleマップではこのあたりでしょうか

桜井市のホームページを見てみると、桜井市は日本最古の神社といわれる三輪の大神神社、初瀬の長谷寺、多武峰の談山神社、等弥神社などの由緒ある社寺が数多く残っており、ヤマト王権の中心的な地域であったと考えられているようです。

遺跡の多い地域のようですね。

過去の経緯

記事にも書かれていたように、企業用地の交渉に当たっていた5年前から、「埋蔵文化財の発掘調査費用」は高額になることを市でも企業者であるイオンに伝えてあったようですね。

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平成25年6月の定例議会の議会報告にもその旨の討論が行われていました。

参考 さくらい市議会だより(PDF)

発掘費用について

開発事業者の費用負担について

発掘費用は起業者負担となります。なぜ開発事業者が負担しなければいけないかについては、文化庁によりこのような説明がなされています。

埋蔵文化財は、我が国の歴史を解明する上で重要な価値を有する貴重な国民共有の財産であり、可能な限り現状で保存することが望ましいものであるが、開発事 業等が計画されたことによりこれを現状のまま保存することができなくなった場合、少なくとも、発掘調査によって当該埋蔵文化財の記録を保存することとし、 この場合、当該埋蔵文化財の現状による保存を不可能とする原因となった開発事業等の事業者に対しその経費負担による記録保存のための調査の実施を求めることとしている。

つまりは、開発事業により文化財の保存ができなくなってしまうのだから、その負担は開発事業者がせよ。ということらしいですね。

なお、個人住宅・農業関連事業等では国の補助が受けられます。

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事業者に負担を求める発掘調査経費の範囲等

開発事業等に伴う埋蔵文化財の発掘調査に関して開発事業等の事業者に経費の負担を求めるのは、発掘調査作業に要する経費(機械器具の借損料、立入補償費等を含みます。)、出土文化財の整理等に要する経費(応急的な保存処理のための費用を含みます。)、報告書作成費等となります。

参考:文化庁|埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化等について

重要事項説明書との関係

不動産の取引に当たっての埋蔵文化財の一般的な扱いについて説明したいと思います。宅建業者が仲介をして売買をする場合、重要事項説明書の交付があります。宅地建物取引業第35条に規定されているため、「35条書面」とも言われますね。

この書面は、売買などの不動産契約にあたり、契約に関する重要事項を消費者に説明するものですが、その項目の一つに「都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限」も重要な事項となっています。

そしてその他の法律の中に文化財保護法も盛り込まれているので、取引される土地が周知の埋蔵文化財包蔵地に該当する場合は、重要事項説明書にて買い主に説明がなされることとなります。

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宅地建物取引士が埋蔵文化財包蔵地について調査をする場合は下のような項目を調査します。

【埋蔵文化財の有無及びその状態について】

  1. 対象不動産が文化財保護法に規定する周知の埋蔵文化財に含まれるか否か
  2. 埋蔵文化財の記録作成のための発掘調査、試掘調査等の措置が指示されているか否か
  3. 埋蔵文化財が現に存することが既に判明しているか否か(過去に発掘調査等が行われている場合にはその履歴及び措置の状況)
  4. 重要な遺跡が発見され、保護のための調査が行われる場合には、土木工事等の停止又は禁止の期間、設計変更の要否

この項目は本来不動産鑑定士が基準とする不動産鑑定評価基準に記載されている項目なんですが、売買に当たっても最低限これぐらいの調査はしておいた方が良いでしょう。

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発掘費用について

発掘調査費用は18億円。広さは7.4ヘクタール(74,000平米)です。発掘費用の単価を計算してみます。

発掘費用(単価):24,300円/平米 (坪8万円)

かなり高いですね。

埋蔵文化財の発掘費用については、個別性が強いために標準的な相場がないと言われています。上の金額は参考程度にしていただければと思います。

まとめ

発掘調査費用18億円というのは驚きの高さでした。奈良のような史跡などの多い地域では重要な大規模遺跡がよく見つかるのでそれだけ費用がかかるのでしょうか。

私も以前鑑定評価をした土地で「ここは遺跡が出るよ」と市役所担当者に言われた物件がありました。通常、埋蔵文化財包蔵地に該当していても文化財が出てくる可能性が低いことから評価上はさほど考慮しないことが多いんですが、このときは近隣の同じような開発では6000万円ほどかかったなど、色々なことを市役所で教えてもらいました。

評価上、包蔵地であることを考慮しないという条件(調査範囲等条件)を付加することもできますが、色々な要件もありそのときは多方面へのヒアリングを行って相当の減価を行って鑑定評価を行った記憶があります。

とはいえ実際開発をしてみないと分からないので、机上の空論的な費用しか積算できませんですけどね。

せっかくですので次回は周知の埋蔵文化財の鑑定評価における取扱いについてきちんと書いてみたいと思います。




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