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東日本大震災から6年。被災地の地価はどのように推移してきたのか。

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東日本大震災が起こったのが平成23年(2011年)3月11日。今日でちょうど6年が経過しました。

数字を使って詳細な分析をしたいなと思っていたんですが、年度末のバタバタからできませんでした。色々と分析したいことは溜まっているのですが、時間ができたらまた行うとして、今回は地価公示の発表資料を用いて、東北地方がどのような地価変動を辿っているかを観察してみたいと思います。

平成23年地価公示

地価公示は平成23年1月1日現在の価格を求めます。報道発表自体は3月後半と、東日本大震災後でしたが、地価公示で求められた価格には震災の要因は当然考慮されていません。

ほとんどの地域では、地価の下落は携行しているものの、下落率は緩和傾向がみられていたようですね。青森・岩手は前年並みの下落率を示しています。

平成24年地価公示

東日本大震災の影響が反映された第一回目の地価公示です。平成24年地価公示の概要の中でも「東日本大震災の被災地」として、概観が述べられています。

URL:平成24年地価公示の概要

  • 地価公示は、多数の土地取引が行われる地域において価格の指標を与えること等を目的として実施されるものであるので、津波により甚大な被害を受けた地域や原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する標準地については、調査地点の変更(選定替)あるいは調査を休止した(休止は警戒区域内の17地点)。
  • 被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られ、特に宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られた。岩手県は前年と同程度の下落率を示し、福島県は前年より大きな下落率を示している

2段目に書かれていますが、宮城県の高台の住宅地では移転需要により地価が上昇しました。岩手県では前年と同程度の下落率。原発の影響をもっとも受けた(現在もうけている)福島県では、下落率が拡大しています。

高台で津波の心配が少ない住宅地は需要が集中し、宮城県石巻市の「石巻-17」は前年比+60.7%の上昇率を示しました。その他でも移転需要により地価上昇地点が多く、上昇率の上位(全国)はトップ10の内、9地点が宮城県の地点となりました。

また、標準地の地点が不適当になり、選定替え・休止となった地点も48地点出ました。

その他、液状化が発生した東京湾岸(千葉県浦安市など)では10%以上の下落を示す地点が多数現れました。平成24年の住宅地下落率ワーストは津波被害の甚大な気仙沼などのほか、液状化の影響があった地点が目立ちます。

平成25年地価公示

翌年の平成25年の地価公示資料です。

  • 福島県では、25年1月1日現在で原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する標準地についての調査を休止した(休止は警戒区域、帰宅困難区域及び避難指示解除準備区域内の17地点)。
  • 被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られるが、復旧事業の進捗や浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られ、岩手県、宮城県ともに被災した市町村を見ると住宅地、商業地の全体で上昇となった市町村が複数見られた。福島県では住宅地、商業地ともに前年より大幅に下落率が縮小した。

津波被害が主だった岩手県・宮城県と加えて原発問題も抱えている福島県では全く異なる傾向を示しているのが分かります。

住宅地の価格上昇率トップ(全国)は、昨年に引き続き「石巻-17」の地点です。須江小学校の近くの新興の住宅団地ですが、駅からもとおく利便性はそこまで高くなさそう?ですね。

この年の大きな特徴としては、岩手県・宮城県の沿岸地域の市町村で価格の上昇が目立ったことです。市町村平均変動率は多くの市町村でプラスに転じています。

この年の全国での地価の概要は、下落基調。県内平均で価格上昇(住宅地)を示していたのは愛知県と宮城県のみでした。

下落率が著しいエリア(下落率ワースト)からは、東日本大震災の被害地の名前がほとんど消えました。北海道や四国などの地方圏の地価下落が目立っています。

平成26年地価公示

この年から、地価公示結果の概要からも「東日本大震災の被災地」の項目が無くなりました。

被災3県の調査結果の概要は次のとおり。

被災3県を県ごとに捉えると、

  • 岩手県は、上昇地点の割合が増加し、下落率が縮小した。
  • 宮城県は、上昇地点の割合が増加し、住宅地で8割弱、商業地は6割強となった。
  • 福島県は、上昇、横ばい地点の割合が大幅に増加し、住宅地では下落から上昇に転じ、商業地は下落率が大幅に縮小した。

被災3県の中では下落が目立った福島県でも価格上昇地点の割合が大幅に増加したのが平成26年でした。

  • 岩手県及び宮城県では、浸水を免れた高台等の地区において、引き続き、被災住民の移転需要や復旧事業関係者の土地需要で上昇地点の増加が見られた。また、海岸部でも浸水が軽微だった地区については、復旧事業等の進展により需要が回復し、上昇及び横這いの地点の増加が見られた。
    特に、宮城県石巻市の地点(石巻-17)は、石巻中心部の既存住宅地と比較して割安感があることから、引き続き、被災住民の移転需要が強く、15.1%上昇(平成25年23.6%上昇、平成24年60.7%上昇)となり、住宅地で3年連続して全国1位の上昇となった。
  • 福島県では、帰還困難区域等の住民による同区域外への移転需要等の高まり等により、周辺地域の住宅地等を中心に上昇地点が増加し、同区域等周辺市町村では上昇に転じたところも見られた。
    特に、いわき市は、帰還困難区域等からの住民による移転需要が強く、価格水準の高い平地区等では上昇を強めている

2年連続で価格上昇率トップだった「石巻-17」ですが、平成26年地価公示でも需要が強く大きな上昇を示しました。3年連続の上昇率トップです。

平成24年(+60.7%)、平成25年(+23.6%)、平成26年(+15.1%)

東京の地価上昇もはじまり、中央区の住宅地の上昇地点も9、10位に入ってきていますが、上位を占めているのは以前、被災地の移転需要がある住宅地です。

また、工業地の需要も高まっています。平成25年地価公示でも多賀城市や仙台市若林区の工業地の地点が上昇を示していましたが、工業地の上昇率トップ10の半数を宮城県が占めるようになりました。

東日本大震災の被災地では工場などの新設増設を促進するために国が補助金などで支援していましたが、その影響などもあるんでしょうか?

平成27年地価公示

移転需要により住宅需要が堅調だった岩手県・宮城県の高台の地域ですが、平成27年ころになると地価も安定してきます。

3年連続地価上昇率トップ(住宅地)だった、「石巻-17」も平成27年地価公示では+5.0%。3年2桁の上昇が続きましたが、落ち着きました。

  • 岩手県及び宮城県では、浸水を免れた既存住宅地区や高台地区において、引き続き、被災住民の移転需要は根強くあるが、郊外の新たな小規模分譲地、災害公営住宅の供給が増加し、また、土地区画整理などの事業が進捗したことにより、ほとんどの沿岸市町村で上昇率が昨年より小さくなっている。
  • 福島県では、帰還困難区域等の住民による同区域外への移転需要等により、周辺地域の住宅地等を中心に上昇地点が増加し、同区域等周辺市町村では、上昇率が昨年より大きくなっている市町や下落から上昇に転じた町も見られた。特に、いわき市は、帰還困難区域等からの住民による移転需要が強く、品等が高い市内中心部の平地区及び鹿島街道沿線の住宅団地を中心にその周辺部で高い上昇となり、市全域で上昇となった。特に、いわき市の郊外部に位置する泉地区の地点(いわき-51)は、比較的価格水準が低位なことから需要が強く、17.1%の上昇(11.2%上昇)と、住宅地で全国1位の上昇となった。

この年の特徴は、遅れて上昇がやってきた福島県です。特にいわき市の価格上昇が激しく、価格上昇トップ10(全国の住宅地)のすべてを福島県いわき市が占めます。いわき市だけでなく、福島市や郡山市でも価格上昇が目立ち、県内の住宅地平均変動率も+1.0%以上(+1.0%以上は、ほかに東京都、宮城県のみ)になります。

価格形成要因の福島県の概要を読んでみましたが、復興事業などにより県内景気の回復も大きない要因のようです。有効求人倍率は約1.7倍で全国1位。県全体の給与総額も増加して、住宅取得能力が高まり、住宅建築ラッシュがあったのがこの年のようです。

県全体の価格形成要因の調書は地価公示の代表幹事が書く資料になりますが、正直分かりづらいのでいまいち理由が見えてきませんでした。住宅建築の20年サイクルのピークに当たったとも書かれていましたが、本当にそんなサイクルあるんでしょうか?20年に一度建て替えをしていたら、個人消費者はお金がもたないと思うんですが...

単に価格を上昇させるタイミングを一年あやまっただけかな?なんて冷めた印象を抱きました(個人的な感想です)。

岩手県や宮城県では、移転需要もやや落ち着きを見せて、平成26年よりは上昇率が落ち着いたのが平成27年の他県の概況です。

平成28年地価公示

平成28年になると、「東日本大震災が地価に及ぼした影響」として別紙で発表されていたレポートもなくなります。東日本大震災を影響とした価格形成要因が、あまり重要視されなくなった。逆をいえばようやく平時に戻ってきた(土地価格変動の上で)ということでしょうか。

この年頃から、物流施設の工場立地が盛んになってきました。宮城県を中心として被災3県でも工場地の地価が上昇していましたが、工場地上昇率トップ10からは被災3県が消えました。代わりにランクインしてきたのが、さきほどあげた物流施設用地です。

昨年にいわき市でトップ10を独占した、住宅地の上昇ベスト10ですが、10の内、いわき市は2地点となりました。

インバウンドなんて言葉が流行った年でもあるので、外国人旅行者やそれに関連したリゾート用地の価格変動が大きいですね。

他の指標を見ても、東日本大震災の被災地があまり見られなくなりました。平成27年に土地価格が急上昇した福島県も、「原発事故による被災者の需要がピーク越えした」と分析されています。

移転需要よりも低金利による住宅需要の方が大きな要因になってきたのかも知れません。

まとめ

被災の甚大だった福島県や宮城県では不動産鑑定士協会も「東日本大震災」関連の書籍を発行しています。

「2011.3.11福島の記憶 -東日本大震災記録誌-」刊行案内

宮城県不動産鑑定士協会の書籍「After 3.11 次代への記録」はもう発売されていない?ようです。




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