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固定資産税、家屋評価における「需給事情による減点補正」とは?

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先日、旅館の建物(家屋)固定資産税評価額の判決に関する記事を書きました。

参考:旅館の建物固定資産税の減額を認める宇都宮地裁判決がでました。

その中で論点となっていたが、今回話題とする「需給事情による減点補正」です。先の記事の中では訴訟の内容を紹介するのがメインだったので、需給事情による減点補正については詳しく説明していませんでしたので、改めてその仕組みと内容について説明してみたいと思います。

固定資産の評価は総務省により定められている。

市町村が賦課する税金として固定資産税、都市計画税があります。土地、家屋、償却資産を総称して固定資産といいますが、固定資産税や都市計画税はこの固定資産の評価額に応じて課税がされます。

土地、家屋の価格は、「適正な時価」とされており、市町村長が決定することとされています。しかしながら、市町村が独自に評価方法を採用して、バラバラの評価基準を取っていたのでは客観性や公平性がなくなってしまいます。そのため評価を行う市町村は全国統一の評価基準を用いることによって、固定資産を評価します。

この基準が総務省(旧自治省)の定める固定資産評価基準です。

URL:総務省|固定資産評価基準

固定資産基準は第一章から第三章から成り立っており、それぞれ土地、家屋、償却資産の評価について記述されています。

今回説明していくのは第二章の家屋、その中の「需給事情による減点補正」です。

固定資産評価基準|第二章の家屋について

第二章家屋は、

  • 第一節|通則
  • 第二節|木造家屋
  • 第三節|非木造家屋
  • 第四節|経過措置

の4節からなります。

需給事情による減点補正は第二節と第三節、木造家屋と非木造家屋にそれぞれ規定されています。

(需給事情による減点補正率の算出方法)
需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとする。

家屋の価格は、再建築費(価格)を基準として評価する方法(再建築価格方式)を採用しています。この再建築価格方式は、評価の時点において、評価の対象となった家屋と同一のものをその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費を求め、その家屋の建築後の経過年数に応じた減価を考慮し、その家屋の価格を求めるものです。

【価格(評価額)】 = 再建築費評点数 × 経年減点補正率等 × 評点1点当たりの価額

  • 再建築費評点数…評価の時点において、評価の対象となった家屋と同一のものをその場所に新築するものとした場合に必要とされる工事費などに相当するもの
  • 経年減点補正率等…家屋の建築後の年数の経過によって生ずる損耗の状況に応じて減価補正を行うための補正率など
  • 評点1点当たりの価額…木造家屋1.05円、非木造家屋1.10円、簡易附属家1.00円

つまり、「どのような資材をどれだけ使用しているか(再建築費評点数)」、「構造及び用途等の区分に応じて設定されている建築後の経過年数に応じる減価率(経年減点補正率)」及び「地域に応じた物価水準と工事原価に含まれていない設計管理費、一般管理費等負担額の費用(評点一点当たりの価額)」によって評価額を算出します。

その後、家屋の状況に応じて、必要があるものについては、需給事情による減点を行うものとされます。「需給事情による減点補正」は、全ての家屋について補正がされるものではなく、一般的な評価基準で計算したものの、適正な時価とは乖離するものについて例外的に適用される減価補正方法です。

需給事情による減点補正

需給事情による減点補正は市町村が「建築様式が著しく旧式となっている家屋、所在地域の状況によりその価値が減少すると認められる家屋」について減点を行います。補正率は「その減少する価額の範囲において」定められます。市町村によってどのような場合に減点を行うのか、どのような減点補正率が用いられているのかは異なりますので、具体例をあげて紹介していきたいと思います。

平成12年基準年度以前は需給事情による減点補正に関する通達が出されていましたが廃止されました。しかしながら現在もっ当時の依命通達の指針を参考として、適用の基準とされているのが実情です。

大阪市の需給事情による減点補正

大阪市の固定資産評価実施要領には次のように規定されています。

  1. 草葺の家屋、旧式のれんが造の家屋その他間取、通風、採光、設備の施工等の状況
    からみて最近の建築様式又は生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少すると認
    められるもの
  2. 不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所
    在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
  3. 交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該
    地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋

URL:大阪市|家屋評価(PDF)

結果、大阪市内においては、上のような要因による減価ななく(又はあったとしても減価が僅少である)、その適用の必要は認められないとして、需給事情による減点補正を適用していません。

邑南町の需給事情による減点補正

邑南町では、ゴルフ場の施設、具体的にはクラブハウスや従業員宿舎について「需給事情による減点補正」を行っています。

参考:邑南町|邑南町需給事情による減点補正の適用に関する取扱要綱

取扱要綱まで作ってしっかり「需給事情による減点補正」を行っている市町村は珍しいですが、邑南町内のゴルフ場の家屋評価(具体的には需給事情による減点補正)について、最高裁まで争ったことがあることに原因があるかと思います。

最高裁の判決により、原告のクラブハウスの需給事情による減点補正の適用を求める訴えが認められ、58%の減点補正率が提示されました。つまり、当時の家屋評価額が4割強も高いと判断されたんですね。

邑南町は人口1万人強の小さな町なので、家屋に関するスペシャリストもいないでしょうし、かなり酷な訴訟だったんじゃないでしょうか。

さて、この取扱要綱の内容を簡単に説明していきます。

詳しくは上のURLから具体的に要綱を読み込んでいただきたいんですが、別表が2つ付いています。一つが減点補正の適用要件、もう一つは補正率の表です。

およそ3年間を基準として、ゴルフ場の利用者が減少していること、ゴルフ場の決算状況が赤字の場合には減点補正の適用される可能性があり、ゴルフ場利用者の減少率に応じた減価率が適用されます。減点率も基本的には最大50%、地域の事業所数、地域の商品販売額、地域の製造品出荷額、地域の観光入込客に応じて更に大きな減点率になるので最大70%の減点となります。

南相馬市の需給事情による減点補正

福島県の南相馬市では、原発事故の要因を需給事情による減点補正により対応し、減価しています。

参考:南相馬市|平成28年度の固定資産の評価について

  • 補正区分|需給事情による補正
  • 残価率内容|原発事故の心理的影響と人口減少による残価率
  • 残価率|全家屋0.9

原発事故による減額を損耗による補正と需給事情による補正の両建てで対応し、適用しています。

原発事故によるものは「放射性物質の付着によって建物の価値自体が直接的に減額されるもの」と「福島第一原子力発電所の事故による心理的影響及び人口の流出から需給事情が変化したために評価額が間接的に減額されるもの」があります。

また、地震や津波によって半壊以上の被害のあった家屋は、原発事故の減額補正を行った上で、さらに損壊区分に応じた補正率を適用することになります。

まとめ

需給事情による減点補正の全国の適用実態については、古い調査で財団法人資産評価システム研究センターの家屋に関する調査研究(家屋評価における補正のあり方に関する調査研究・家屋評価における経年減点補正率表の見直しに関する調査研究)があります。

10年ほど前の調査結果になりますが、需給事情による減点補正を適用している市町村は全市町村のうちの1割程度、ゴルフ場や旅館について、需給事情による減点補正により減価せよとの判決がその後出されている経緯も考えると適用団体は増えているのかもしれませんね。

参考:(財)資産評価システム研究センター(PDF)




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