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法定耐用年数、経済的耐用年数とは?建物が築何年まで価値があるのか。

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中古住宅の活性化の中で話題となる単語に「耐用年数」があります。既存の住宅ストックは増加傾向にあり、住宅需要者も新築と中古の選択の際に、中古でも良いと考える人の割合が増えてきています。

国策としても中古住宅の活性化には力が入れられており、中古住宅の流通シェアは今後まだまだ増加するものと考えられています。

では中古住宅は何年もつのでしょうか?それを表すものが耐用年数です。

一括りに耐用年数といっても様々な概念が存在します。もっとも有名なものは税法上の建物の耐用年数でしょうか。法定耐用年数という呼ばれ方もしますね。そのほかに経済的耐用年数残存耐用年数なんて言葉もあります。

耐用年数の定義、考え方の違いを整理するとともに、建物の経済的耐用年数について考えてみたいと思います。

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耐用年数とは?

まずは一般的な耐用年数についての定義です。

耐用年数とは、減価償却資産が利用に耐える年数をいいます。耐用年数は会計上の費用配分の際に使われたり、税額算定のために税法に規定されたり、不動産の評価の際に建物が何年もつかを計算したりと、さまざまな用途で使われます。

そしてそれぞれの用途で耐用年数の定義が異なり、年数の長さも異なります。

耐用年数の種類

  • 会計上の耐用年数
  • 税法上の耐用年数(法定耐用年数)
  • 不動産評価での耐用年数(経済的残存耐用年数)

法定耐用年数

会計上、減価償却資産は長期にわたり経済的に価値があるものを、各年度に費用配分する必要があります。税法では恣意性を排除する目的で「資産の種類」「構造」「用途」の別に耐用年数を詳細に定め、画一的に処理するよう扱われています。

このように税法で規定されている耐用年数を「法定耐用年数」と言います

[table id=43 /]

引用 国税局|主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物附属設備)

あくまで法律で定められた画一的な耐用年数なので、実際に住宅が何年経済価値を有するかという個別的な当てはめは難しいです。ただ、金融機関や不動産鑑定の現場においても法定耐用年数を目安にして建物の耐用年数を判定することはかなり多いです。

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法定耐用年数は新築(新品)の資産の耐用年数です。中古資産に関しては取得後の使用可能期間を見積もって、その見積耐用年数によって償却期間を計算します。見積が困難な場合は税法上、簡便法が認められています。

法定耐用年数を超過した資産の場合は、法定耐用年数の20%、法定耐用年数の期間の途中だった場合には、法定耐用年数から経過年数を引いた数字(残存年数)に経過年数の20%を足した数字とすることができます。

具体的な計算例や詳細な解説は別記事「中古建物(中古マンション・アパート)の耐用年数はどう計算する?」を参考にしてみてください。

経済的残存耐用年数

鑑定評価では経済的残存耐用年数という言葉があります。評価する建物が経済的に価値を有するのはあと何年かということです。言い換えれば無価値になるまでの年数、あと何年建物が価値があるのか、と言っても良いですね。

残存をとれば、新築時から建物が無価値になる期間をあらわす、”経済的耐用年数”となります。建物が建築されてからの経過年数との関係を整理すると次の式が成り立ちます。

経済的耐用年数=経過年数+経済的残存耐用年数

同じ建物は、新築時であれば経済的残存耐用年数はほぼ同じと考えられます。建物の建てられている地域(寒冷地、海沿いなど)によって違うではないか!という意見はとりあえず考慮外とします。

では、その同じ建物が5年後、10年後、20年後と築年数を重ねていったとき、果たして経済的残存耐用年数は同じでしょうか。居住者(建物の使用者)の利用状況や日々の修繕、ペットの有無などによって建物の傷みは当然異なります。

したがって、同じハウスメーカーに同じ工法で建てられた建物であっても経済的残存耐用年数は異なります。不動産鑑定評価基準には耐用年数を用いて建物の減価を計算する際に「経過年数よりも経済的残存耐用年数に重点をおいて判断すべき」と書かれています。経過年数が20年だから価値ゼロ(経済的残存耐用年数ゼロ年)と安易に判定することなく、個別具体的に建物の調査して経済的残存耐用年数を判定しなさいということですね。

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「経済的」の意味

また、経済的残存耐用年数は物理的な残存耐用年数とは異なるといったことにも注意しなければなりません。建物が年の経過とともに減価していく要因には、「物理的要因」「機能的要因」「経済的要因」の3つがありますが、物理的な要因は一つの要因に過ぎません。

不動産が減価する要因3つ

  • 物理的要因
  • 機能的要因
  • 経済的要因

価値を判定するためには、建物が物理的に何年もつかではなく、経済的に何年価値を有するかが重要です。

融資における耐用年数

銀行は住宅ローンという形で中古住宅の流通に関わっていますが、融資においても耐用年数が判定されます。

耐用年数は各金融機関で異なりますが、総耐用年数を20年と考えて、築20年経過した物件は建物無価値と判断しているところが多いです。

担保価値の把握として耐用年数を判定するのと、もう一つ「融資期間(返済期間)」を判定するためにも耐用年数は使われます。

一般的に融資期間はその不動産が価値がある期間内である必要があります。融資期間内に建物がボロボロになってしまい、その不動産が売れなくなってしまったのでは価値がなくなり何も担保するものがなくなってしまいます。特に中古住宅では建物があと何年もつかという判断が重要になってきます。

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住宅ローンとアパートローンとの違い

とはいえ、住宅ローンでは融資期間35年としているんじゃないの?という意見が聞こえてきそうですが、それは住宅ローンの審査基準が担保となる不動産ではなく、個人の属性(勤務先、勤続年数、年収、職業など)であるからです。そのため住宅の耐用年数を超える住宅ローンの融資期間が設定されることは多々あります。というかほとんどそうですね。

住宅ローンの融資期間の設定

住宅の耐用年数 < ローンの融資期間

しかしながら、アパートローンはその不動産の生み出す賃料を原資としているので物件そのもの価値が融資審査に大きく影響します。

したがって物件の耐用年数内に銀行の融資期間が設定されることがほとんどです。

建築における耐用年数

建築の現場においても耐用年数という言葉が使われます。この場合の利用は建物の躯体が何年もつかという意味合いで使われることがほとんどです。

物理的耐用年数と言い換えることもできます。

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住宅の耐用年数に関連した統計

耐用年数について参考になる統計資料を紹介します。

戸建注文住宅の顧客実態調査

大手ハウスメーカーなどにより構成されている団体「一般社団法人住宅生産団体連合会(住団連)」が毎年公表している資料に”戸建注文住宅の顧客実態調査”があります。

URL 住団連|戸建注文住宅の顧客実態調査

注文住宅の購入顧客の平均年齢や世帯年収、建築費などがまとめられている面白い調査なんですが、その中に建て替えをした際の従前住宅の平均築年数という統計があります。

[table id=44 /]

2016-09-03_09h28_36

この統計によると建て替える際の従前住宅の築年数は平均36.2年、2014年は2年ほど短くなりましたが、築年数は長くなっている傾向が認められます。

2016-09-03_09h30_37

築年数の構成比をみてみると、40年以上たっている建物の割合が非常に大きいですね。

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自己使用での建て替えをするまでの年数なので、経済的な耐用年数とは若干意味合いが異なります。経済的な市場価値は平均築年数(2014年は平均36.2年)より前に無価値となっていると考えられるので、この統計調査の年数は経済的耐用年数よりも長いと考えられます。

物理的な耐用年数の方が近い感覚でしょうか。

まとめ

中古住宅の流通が増えるにしたがって、築30~40年といった耐用年数を満了しているのでは?といった住宅の取引も多く見かけるようになりました。

築年数は結構経過していても、その後の大規模リフォームなどによって、建物価値がかなりついた状態で取引されているものも多くあります。古い住宅だから価値ゼロなどと画一的に処理するのではなく、それぞれの住宅を見極めて経済的残存耐用年数を判定することが大事ですね。

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