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有益費とは?必要費との違い、有益費償還請求権・必要費償還請求権を民法608条に基づいて解説

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先日twitterでこんなツイートを見かけました。かなりの方がいいねやリツイートをされているようです。

山間集落などの人口減少地域では、古家が安い賃料で賃貸に供されていることがよくあります。tweetの趣旨は、「古家を借りて自分で手を入れて修繕しても、契約更新を拒否されて大家がきれいになった家を奪っていく」というものですが、そんなことが本当に可能なんでしょうか?

この問題の論点は2つありまして、そんなに簡単に契約更新を拒否できるの?が1点。もう1点が、家の修繕や改良にかけたお金は当然に戻ってこず、家ごと大家さんに奪われてしまうの?ということです。

今回は後の論点「借家にかけたお金は戻ってこないのか?」を説明したいと思います。

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必要費・有益費とは?その違い。

賃貸人(居住者・占有者)が家にかけたお金は、民法上は必要費や有益費と呼ばれています。ともに費用の概念の一つですが、次のように異なります。

必要費とは

必要費とは、"建物の修繕費、家畜の飼料費、公租公課(固定資産税・都市計画税)などのモノの維持(保存)・管理に必要な費用"をいいます。

有益費との違いは、建物そのものの価値を増加させる費用かどうかです。建物価値を増加させるような費用は有益費、建物の維持に必要な費用、つまり建物のマイナスを補う費用は必要費とされます。

有益費とは

有益費とは、"改良その他のモノの価値を増加させるために費やされた費用"をいいます。

例えば、借りている店舗の入り口の改装工事費用、カウンターやシンク(流し台)の改良工事費用が有益費に該当します。

有益費に似た概念としては借地借家法に「造作」があります。ともに建物に付随した建物利用の価値を増加させるものですが、造作は建物から取り外すことができる独立なものであるのに対して、有益費は建物と一体化して独立の所有の対象とならないものです。

分かりやすいように具体的な例をあげます。

造作

エアコンなどの空調設備、畳、建具、簡易な水道設備、取り外し可能な調理台

などが代表的な例です。

有益費としては上にあげたもののほか、傷んだ外壁のタイルの張り替え工事費用、傷んだ床の張り替え(フローリング化)費用、下水道の引き込み工事費用(汲み取りから水洗化)などは建物価値を高めるものとして一体化したものです。

尚、建物にステンドグラスを取り付けるなど、趣味性の強い・個性の強いものは奢侈費(しゃしひ)として有益費とは区別されます。以前、借家に薪ストーブを取り付けるという事例を目にしたことがありますが、これっも奢侈費に該当するのかと思います。

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必要費は物件の現状を維持するための費用。有益費は物件の現状を改良するための費用。

費用償還請求権とは?必要費・有益費は戻ってこないの?

賃借人の払った必要費・有益費は戻ってこないんでしょうか?扱いがやや異なるので有益費と必要費に分けて説明します。

必要費償還請求権

必要費に関しては、「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。」民法第608条1項に規定されています。

そもそも建物の修繕は賃貸人の義務、大家さん側の義務になります。そのため賃借人が修繕費用を支払った場合、必要費として返してもらうことができます。

有益費償還請求権

有益費に関しては、「賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。」民法第608条2項に規定されています。

必要費はただちにその償還を請求できるのに対し、有益費は賃貸借の終了時になってやと償還を請求できるようになります。これは有益費は賃貸借が終了してもその後も継続して賃貸人に利益になることから、賃貸借契約終了後に借家人から賃貸人にその費用は返還されるべき。という理由によります。

そもそも勝手に借家の修繕や改良ってして良いの?

そもそも勝手に借家の修繕や改良を借主がしても良いものなんでしょうか?生活に支障をきたすような特別な修繕ならばともかく、原則としては修繕や改良は勝手に借主が行ってよいものではありません。

理由は簡単。建物の所有者は大家さんのものだからです。賃貸借契約書に承諾不要で修繕・増築・改装をしても良いと書いてある場合は契約によりますが、そのような契約はほとんどありません。軽微な修繕は別として増築や階層、大規模修繕は大家の承諾が必要とされている契約書がほとんどです。

従って、上の必要費・有益費償還請求は契約の範囲内のものに限られます。

大家の承諾も無く勝手に改装を行って、有益費を支払ってくれ!と言っても、そうは問屋が卸しませんということです。逆に原状回復してください。借主の費用で元に戻してくださいと言われてしまいますね。

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必要費・有益費は借主(賃借人)負担とするという特約について

最後に、必要費・有益費は借主(賃借人)負担とするという特約について。このような特約は有効なのか?を説明したいと思います。

契約自由の原則もあり、判例では必要費・有益費を賃借に負担とする特約も有効である。との立場にたっています(東京地裁昭和46年12月23日・東京地裁昭和61年11月18日など)。

ただし、他の法律(主に消費者保護契約法)の適用がある場合は必要費・有益費放棄特約の全部または一部が無効であるという判決がでる可能性もあります。

結局、借家にかけたお金は戻ってこないの?

契約・民法を守って支出された必要費・有益費は戻ってくる。というのが答えになります。勝手に家をリフォームしたからその分の費用を返してね。っていうのはダメですが、賃貸人の承諾を得て、適正に支出されたお金は必要費・有益費として戻してもらうことができます。

ですので、いくら自分のものだとはいえ、大家さんが勝手に契約更新を拒絶し、きれいになった古家を戻してもらう。ってことは多分無理です。

そもそも借地借家法により賃借人は保護されているので、簡単には大家さんも更新の拒絶をすることができません。もし大家さんの正当事由が認められ、立ち退かなくてはいけない場合でも立退料の支払いが命じられることが多いので、一方的に不利な立場にはならないようになっています。

具体例(エアコンの造作)

不動産賃貸業では具体的に問題になりやすいのがエアコンなどの造作です。

エアコンって借り主が勝手につけて良いの?据え付けで借りた当初からあったアパートのエアコンって誰のものなんでしょう?壊れた場合は誰が負担するんでしょう?

疑問に思いだすと、謎がどんどん湧いてきますね。

この疑問については別記事「賃貸アパートのエアコンは誰のもの?壊れた場合の費用は誰が負担する?」にて詳細に解説しています。是非読んでみてください。

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