先日、住宅新報社で次のような報道がありました。
国土交通省は、動産を含む不動産の鑑定評価手法を確立する。農地評価の統一的な基準づくりも検討する。
事業用不動産などでは動産が資産額に占める比率が高い傾向にあるため、動産を含めた鑑定評価を依頼されるケースが目立ち始めているという。農地について は近年、相続や公売・競売、担保評価などに際して客観的な評価を依頼されるケースが増加。これらの新しいニーズに応えるべく、それぞれ統一的な評価基準を 設ける方向だ。
従来通り、鑑定評価の対象外という位置づけで基準を策定する方法のほか、不動産鑑定法を改正し鑑定評価の対象として位置づけていく可能性もあるという。引用:住宅新報web
農地評価と、事業用不動産の評価についての鑑定評価基準の検討についてですね。今年5月に国土交通省で土地・不動産活用のための鑑定評価の充実が検討されていました。この流れの一環でしょうね。
経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方式2016」(仮称)に「鑑定評価の充実」がとりあげられています。
参考:国土交通省|土地・不動産活用のための鑑定評価の充実(PDF)
この中では、今後見込まれる不動産市場の成長に対応するため、不動産鑑定士の更なる質の向上を図る必要があることが確認されました。具体的には次の3つです。
- 専門性を認定する仕組みの構築(証券化対象不動産)
- 事業用不動産等の鑑定評価の充実
- 農地評価の充実
動産一体不動産(事業用不動産)について
ホテル・ヘルスケア施設等の事業用不動産や、再生可能エネルギー発電設備等の立地する不動産は、他の用途に比べて、資産額に占める動産のウェイトが高い傾向にあります。しかしながら、不動産鑑定士が行なう動産評価については、不動産鑑定評価法の対象外であるため、制度的には不安定な状態にあります。
鑑定評価の信頼性向上の観点からも、不動産と一体となった動産も考慮した評価方法を確立することにより、鑑定評価の充実を図る必要があります。
動産比率はすべてのFF&E(医療用機器等を含む)をオーナー(不動産所有者)側が所有している場合の総資産に対する動産の価格比率(新築時)です。
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農地評価について
農地の評価は現状では鑑定評価法の枠外に置かれています。
第五十二条(農地等に関する適用除外)
次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該評価等の行為は、この法律にいう不動産の鑑定評価に含まれないものとする。
一農地、採草放牧地又は森林の取引価格(農地、採草放牧地及び森林以外のものとするための取引に係るものを除く。)を評価するとき。
昭和38年の不動産鑑定評価法の制定時、参議院・衆議院での委員会審議の際に「将来農地等を不動産鑑定評価法の鑑定評価行為の対象に含まれるものとすること」と附帯決議がされていますが、現在時点で放置されています。
日本不動産鑑定士政治連盟
上の農地評価と動産一体不動産の評価については、日本不動産鑑定士政治連盟(鑑政連)の要望書にも取り上げていました。
農地等の鑑定評価
農地等の評価については、農地等の保有より利用への流れを促進する上で、また人口減少社会における土地政策のためにも、関係省等の理解を得て農地等の適正な鑑定評価の実施が求められている。
したがって、我が国の目指す方向として重要な農業政策の新しい展開に寄与し、社会的ニーズに応えるため、農地等の評価については、不動産の鑑定評価に関する法律第52条第1号を改正のうえ、同法における不動産鑑定に組み入れることを要望する。
「不動産と動産の集合物」の鑑定評価
工場財団を始めとする各種財団の鑑定評価は、これまでも不動産鑑定士が担っており、事業融資や会計監査において特に強いニーズがある。加えて近時は、エコ社会の推進に向けた再生エネ発電施設(太陽光発電施設、風力発電施設等)や事業用不動産(ヘルスケア施設、病院施設等)と動産の一体評価等、付置された動産と不動産の集合体の鑑定評価が求められている。これらに適切に応えるために不動産の鑑定評価に関する法律の適用範囲の拡大を要望する。
まとめ
住宅新報社の記事をもとに、国土交通省や鑑政連の動きをまとめてみました。