今日は不動産鑑定士が絡む訴訟案件があったので、まとめてみました。
大願寺造成地売却問題で、市長に1億5千万円の返還請求命令
広島県大竹市の大願寺造成地売却に当たって過失があったとして市長に1億5千万円の返還請求が命じられました(広島高裁)。
大竹市が「造成した土地」を評価額の半額以下で売却したのは違法などと訴えられた訴訟。広島高裁が市長に賠償を命じました。訴状などによりますと大願寺造成地について市は3億5千万円で売却しましたが実際の評価額がおよそ7億円だったため市民団体が差額の賠償を求めていました。広島高裁の森一岳裁判長は市の土地の価格算出方法に合理性はなく議会の承認も認められないとして、1審判決を破棄し市長におよそ1億5千万円の支払いを命じました。
不動産鑑定評価額が7億1300万円の土地を3億5千万円とほぼ半額で売却した(平成24年)のは違法だとして、住民が市長などに差額の3億6300万円の損害賠償を求めていた訴訟の判決です。
2015年7月の一審広島地裁判決では、地方公共団体が不動産を売却する際には、市にも裁量があるとして原告の訴えを棄却していましたが、今回の高裁判決では判決が変わり、市町にも責任が認められた形になります。
森友学園の土地売買問題もそうですが、最近は公と民の土地売買が問題となるケースが多いですね。公の機関の土地の売却に際しては不動産鑑定士による不動産鑑定評価が行われるケースがほとんどですので、私も気になった判決でした。
今回はこの訴訟の背景などを整理して記事にしてみたいと思います。
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大願寺造成地はどこ?
大願寺造成地は現在は住所が変更されており、小方ヶ丘(おがたがおか)という地名になっています。
当時の所在地番などは次のとおり
所在:大竹市小方町小方字大願寺山187番1外
種別:土地
地目(現況):雑種地
面積:62000.43㎡
googleの地図では以下のとおり。
新しい小方中学校の東側にあり、現在は宅地分譲されきれいな住宅団地となっています。
売買価格・売却の相手方は?
処分価格は冒頭にも述べたとおり、3億5千万円。処分の相手方は地元の企業のエポックワン(有)とアオイ不動産(有)です。
不動産業者と有料老人ホームなどを運営する法人が売却先となっています。
売却が議論された平成23年12月の市議会資料でも、街の小さな不動産屋のようだけど、どんな企業?との質問がなされていました。
売却の経緯
大願寺山造成地の売却の経緯は、平成23年12月の議会議事録に記載されています。
この場ではすでに、処分価格が3憶5千万円というのは決まっていました。処分価格が決められたのは12月本会議前に行われた、大願寺地区土地売り払い事業実施者選定委員会と不動産評議審議会です。
平成23年11月4日|不動産評価審議会
7億1300万円で不動産鑑定士による評価がなされたとの報告があり。審議会の会長は副市長の大原豊氏です。
平成23年11月29日|事業実施者選定委員会
大原豊氏が選定委員会会長として、売却価格を鑑定評価額の半額以下の3億5千万円で売却し、エポックワン・アオイ不動産を選定事業者とする結論を導いています。
その後12月の本会議にて、議案第68号「財産の処分について」として審議され、売却が決定されます。
市長はそもそも不動産鑑定評価を信用していなかった?
どのような経緯で鑑定評価額の半額になったのかは明らかではありませんが、市長はそもそも不動産鑑定評価額なんてものは信用していなかったと思われる記述がありました。
この中で議員の山崎年一さんが、大願寺造成地の売却の件が行政処分になってしまったことに質問の中で触れています。
しかしながら平成23年12月議会に提案されました議案第68号財産の処分についてのいわゆる大願寺造成地の処分による事案が審議されましたが、残念なことに行政訴訟となっております。事案は、不動産鑑定士による鑑定評価額及び不動産評価審議会の評価額の半額以下で売却したことは違法であるから、売却を行った市長や副市長個人に対して損害賠償請求を行うよう求めたもので、市民や大竹市議会議員10名が提訴したものであります。現在、違法公金支出損害賠償請求事件として平成25年2月26日に広島地方裁判所に民事事件として提訴され、現在審理中であります。
更に発言が続きます。
かし今回の事案は、市民から疑問の提起や異議が申し立てられることはあらかじめ想定できたことであります。なぜなら、かねてより大願寺問題について入山市長は、行政は鑑定評価額以下では売られないという発言をされながら市民の皆さんから裁判に訴えられることがあるかもしれない、そのときは受けて立ちます。あるいは行政は鑑定士の鑑定評価でないと売れませんというふうに一番最初に職員から申し出を受けました。それ以下で売ると法律違反になりますということを言われました。そんなばかな話はないだろうと、実際に鑑定士が鑑定評価するのは実際の世の中の事例でいくと倍、半分も違う。そんなものを信用して評価するんかなど、おおよそ自治体首長としての常識を無視された発言をなされた結果であったのであります。
鑑定士が評価と実際の売買は倍半分と違うので、信用なんかできないと述べられています。不動産鑑定士の7億1300万円が正しかったのかどうかというのは別問題で生じますが、そもそも鑑定評価額なんてものは参考にもしていなかったようですね。
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平成23年以前から土地の売却をしていた?
記事を調べていると、2009年(平成21年)にはこの土地は入札にかけられていたようです。何度も入札にかけたものの応札がなく、仕方なく平成23年にエポックワン・アオイ不動産に低廉な価格で売却といった流れだったようです。
大竹市の財政を圧迫する大願寺山造成地問題が厳しい局面を迎えている。景気悪化も背景に、宅地部分の入札は2度にわたって参加ゼロ。売却のめどは立っていない。造成地では小中学校の移転も予定する。今後も売却が遅れれば、学校の移転や造成事業の起債償還計画にも影響が生じる可能性がある。
大願寺山問題を解決する鍵となる宅地部分の売却にあたり、市は民間の宅地開発に有利になるよう、売却面積を当初計画の5.4ヘクタールから6.2ヘクタールへ拡大。最低落札価格を目標の13億円から10億5400万円に落とした。昨年11月に一般競争入札の参加を募ったが申し込みはなく、予定価格を最低落札価格より引き下げたとみられる昨年12月の再入札も参加希望社は現れなかった。
市の担当者は大手企業など6社に応札を促した。しかし、この間にもさらに景気後退が進み、「もう2、3カ月早ければ」と反応は低調だったという。昨年6月にあった市の説明会に出席したある住宅メーカーは「現在は金融機関からの資金調達が難しいうえ、新築物件などの動きが鈍く、売れないリスクが高い」と厳しい見方をする。
まとめ
どうして半額にしてまでこの土地を売りたかったんでしょうね。平成23年12月の本会議で処分について議論されたときも、処分価格の3憶5千万円は所与のものとして議論すらされていませんでした。説明の中でも、3億5千万円という価格だけの説明があり、不動産鑑定評価額の7億1300万円の説明はなされなかったようです。
不動産鑑定士としては、鑑定評価をとらず公的機関が高値・安値で売買している実例も何度も目にしています。この件に関しては鑑定評価をとっているので、幾分ましのような気がしますが、そもそも鑑定評価を使う気がないんなら、評価をしていないも同然ですね。
適正な鑑定評価をしていただき、得られた鑑定評価額も適切に使っていただきたいものです。