国土交通省が行う事業に「取引価格情報提供制度」があります。
私のような不動産鑑定士や不動産取引を行う宅建業者なら知っている人も多い制度ですが、認知度もあまり高くないのではないのではないでしょうか。
この記事では、取引価格情報提供制度がどのようなものなのかを説明するとともに、実際の取引価格データの活用方法・分析方法について説明したいと思います。
平成17年以降の不動産の価格に関するデータが国土交通省により収集・公表されています。これにより一般の個人が地元の地域の相場を調べたり専門家が取引価格を統計処理して分析するのに活用されています。
どんな分析ができるのか、実際に一例を示しつつ活用方法をご提示したいと思います。
不動産取引価格情報とは?
平成17年以降の不動産の価格に関するデータが国土交通省により収集・公表されています。これにより一般の個人が地元の地域の相場を調べたり専門家が取引価格を統計処理して分析するのに活用されています。
取引価格情報提供制度の「概要」「対象」「対象地域」「提供内容」は次のとおりです。
概要
不動産市場の信頼性・透明性を高め、不動産取引の円滑化、活性化を図るため、平成18年4月より、不動産取引当事者へのアンケート調査に基づく不動産の実際の取引価格に関する情報を四半期毎に提供しています。
- 取引価格情報は、国土交通省が不動産の取引当事者を対象に実施したアンケート調査の結果などをもとに、物件が容易に特定できないように加工した上で四半期(3ヶ月)ごとに公表 するものです。なお、公表する価格は、数値の丸め以外は一切補正を行っておりません。不動産の取引価格は、面積や形状、前面道路の状況などの個別の要因によって変化す ることはもちろん、同一の不動産であっても、取引の行われた事情などにより、価格が異なることがあります。本情報をご覧になる際には、これらの点に十分ご注意ください。
- 取引件数は、売買などによる登記情報を国土交通省で取引単位に集約し、地域ごと及び取引時期ごとに集計した件数です。なお、土地取引件数は、宅地(土地)、宅地(土地と建物)、 農地、林地を含めた、土地すべての取引件数です。マンション等取引件数は、区分所有物件(戸単位)の取引件数です。すべてで検索した場合の取引件数は、これらを合計した取引件数です。
対象
①宅地(土地) ②宅地(土地と建物) ③中古マンション等 ④農地 ⑤林地 の取引
対象地域
H17年度:三大都市圏の政令指定都市等
H18年度:全国の政令指定都市等
H19年度~:全国の地価公示対象区域等(ほぼ全国)
提供内容
提供内容を箇条書きします。所在地などは不動産が特定できないように概略が提供されています。
- 所在地(※町・大字レベル)
- 取引時期
- 取引価格(※有効数字2桁)
- 土地の面積・形状
- 建物の用途・構造
- 床面積
- 建築年
- 前面道路
- 最寄駅
- 都市計画
- 建ぺい率
- 容積率
- その他
土地代データ・取引価格データを見てみる
実際にどのように取引価格データ(土地代データ)が公表されているのかをみてみましょう。
取引された時期と場所(都道府県・市区町村・地区)を選択すると下のような表がでてきます。
ここに上にあげた「提供内容」が表示され、土地代も総額、坪単価、平米単価で確認することができます。その他として取引の事情、つまり隣地売買や同族法人間の売買などの取引価格に影響がでる事情が表示されます。
取引価格のデータはどうやって収集しているのか?
国土交通省が提供している取引価格情報は、どうやってデータを収集しているのでしょうか。
これが「土地取引状況調査票」です。
土地取引状況調査については、別記事「国土交通省「土地取引状況調査票」を無視しても大丈夫?不動産取引のアンケート調査とは何か?」にて詳しく解説しています。
簡単に説明すると、土地(不動産)を購入すると買い主(購入者)に国土交通省からのアンケートが届きます。このアンケートには取引価格や取引の目的などの調査内容があり、この回答を集計し、国土交通省が取引価格データとしてホームページで公表しているのです。
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国土交通省「土地取引状況調査票」を無視しても大丈夫?不動産取引のアンケート調査とは何か?
土地を取引すると国土交通省から、不動産取引のアンケート調査票として「土地取引状況調査票」が送られてきます。 最近は国からのアンケートでも不審がって回答しない人が多いようですね。 では、この「土地取引状 ...
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取引価格データを分析してみよう
今日は「東京都八王子市長房町」の土地価格を分析してみたいと思います。JR中央本線の高尾駅、西八王子駅の北側に広がる八王子市の郊外の住宅地です。
土地価格データをダウンロードしてみよう
不動産取引価格情報ダウンロード画面(→ URL )を開き、取引された期間、都道府県と市町村を選択します。データは市町村ごとのダウンロードになります。
ダウンロードを押すと、対象データがZIPファイルで提供されます。
文字が小さいかつ、全部の行列が表示されていませんが雰囲気だけつかんでいただければと思います。
八王子市内の取引事例データは平成17年7月以降で、11038件もありました。今回は場所を絞って「長房町」のみをターゲットとします。また建物付きの土地建物の売買や林地・中古マンションの取引も外します。
思ったよりデータ数が少なく、50件となってしまいました。東京八王子ならもっとたくさんのデータが集まると思ったんですが、それほどでもないですね。地域を狭く絞りすぎてしまったようです。
気にせず分析をしていきます。
分析をしてみよう。
後は想像力をいかしてデータを分析するだけです。統計分析には想像力が必要です。この数字と土地価格は関連性があるんじゃないか。この地域ではこの程度のボリューム(規模)の土地がよく動いているんじゃないか。などの自分がたてた仮説をもとに分析することが大切です。
規模を分析する
エクセルを使うことでヒストグラムを描いてみました。
取引の3割強近くは100~150㎡の規模です。しかし、400㎡までは相当数の数の取引があることが分かります。
規模のヒストグラム(histogram)を描くことで視覚的・直感的にどの範囲(分布)の取引が多いかが分かります。八王子市長房町の標準的な分譲面積は40坪程度だと分かります。
エクセルでのヒストグラムの作成方法はやや特殊です。
実際に分析をしてみたいという方は、別記事「エクセル(EXCEL)でヒストグラム(度数分布図)を作成してみる」にてヒストグラムの作成方法を解説していますので参考にしてみてください。
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エクセル(EXCEL)でヒストグラム(度数分布図)を作成してみる
先日国交省の公表している不動産データを使って自分で分析してみよう!という記事を書きました。 参考 取引価格データを使って不動産の価格を分析してみよう。 今回は分析方法、「ヒストグラム」の描き方について ...
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坪単価を分析する
続いては単価、ここでは坪単価を分析してみます。
これもヒストグラムを描いてみましょう。どの価格帯の取引が多いか一目で分かりますね。坪40万~坪60万円です。この価格帯の取引だけで半数強が取引されています。
坪単価と規模を分析する
坪単価と規模は一般的には負の相関があるといわれています。規模が大きくになるにつれて単価が安くなる傾向ですね。
これをデータより導いてみます。単価と規模を並べて散布図を描いてみます。
やや負の相関がありそうですが、規模の大きい2つの点が引っ張っているだけのような気がしますね。標準的な画地規模40坪程度でもかなり安い単価の取引が目立ちます。
分析をしてるぞ!とそれっぽくするために近似曲線を描いてみます。単純に線形の近似と方程式、決定係数を載せてみましょう。
なんとなくそれっぽくなったでしょうか。でも決定係数が0.2を切っています。マイナスが付いているのは負の相関だからですが、一般的に0.2を割る決定係数はほぼ相関がないと判断されます。
駅距離と坪単価を分析する
このような分析はどれだけやってもきりがないので、これで最後にしたいと思います。駅距離と単価の関係です。
駅から遠くなればなるほど、地価は安くなると仮定できます。最後なんだからびしっとした分析結果が出てほしいものですが...いかに?
ちゃんちゃん、という残念な結果になりましたが、ほぼ無相関ですね。駅に近いほど高いという結果は見事に出てくれませんでした。
しかし、面白いことに取引のほとんどが徒歩20分の地域に集中しているんですね。長房町の地図を見る限り、もう少し駅距離はばらついても良いと思うんですが、何があったんでしょう?大規模な数区画の分譲でもあったのかな?でもそれなら、分譲単価はほぼ均一になるはずですよね。
まとめ
統計分析はトライ&エラーの繰り返しです。統計を知らない人はそこが夢見がちなのですが、望んだ統計結果がでなかったので、無相関だ!意味がなかった!と考えるのは早計です。
なぜ無相関となったのか、ほかに影響する要因は何があったのだろうか。それを考えることが統計分析です。
散布図や方程式、ヒストグラムを描くのは統計分析でもなんでもなくお絵かきです。と言いましたが、まだまだ私もたいした統計知識を持ち合わせているとはいえないのがつらいところです。
統計については一時期はまったきちんと勉強していた時期があるので、もう少し詳しく書いてみたい分野ではあります。
また、統計学の学習におススメの書籍の記事「初学者向け、統計学を学ぶための入門本・書籍 20選」も書いていますので、是非参考にしてみてください。
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初学者向け、統計学を学ぶための入門本・書籍 20選
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