不動産や不動産鑑定を主に題材としている出版社プログレス社が季刊で発行している論文誌にEvaluationがあります。
『Evaluation』(エヴァリュエイション)は不動産鑑定を軸に、不動産を取り巻く法律・税務・会計・経営・建築など、幅広い分野を網羅した実践的論文誌です。年4回季刊発行)
2016年5月に発行されたEvaluationは60・61号の合併号ということで240頁とボリュームのあるものでした。
時間を見つけては面白い論文から読んでいたのですが、ようやく読みたいところをざっと読み終えました。特に面白かった3本の論文について紹介したいと思います。
目次
●日本のコンクリートは、どこが悪い!!――100年コンクリートは、どうすればできるのか……秋山英樹
●不動産鑑定士はこれまで何をしてきたか――エンドユーザーを意識し社会に貢献してきたか……今枝意知朗
●住居専用マンションにおける税理士事務所の稼働……上原由起夫
●法人施設併用型の分譲マンションの企画における定期借地権の有用性……大木 祐悟
●賃貸住宅におけるサブリース――契約終了を中心に……太田秀也
●貸宅地に係る裁決事案と鑑定評価――収益還元法に活躍の場はないのか……黒沢泰
●J-REIT市場の現状と将来展望について……近藤一仁
●太陽と水と空は都市のコモンズ――都市のコモンズをめぐる妄想……阪井暖子
●最低敷地面積制度を考える……曽我一郎
●平成26年改正『不動産鑑定評価基準』の重要点……田原拓治
●東日本大震災により液状化した地域および周辺の地価動向……内藤武美
●国家賠償法1条1項に基づく固定資産税の過納金相当額の損害賠償請求に係る諸問題……沼井英明
●土地価格について、固定資産評価基準と不動産鑑定評価基準との関連を探る……坂野辰
●一評価人から見た機械設備評価の現状……松浦英泰
●機械設備等の所有権取得期待権と譲渡担保……松田佳久
●信託のはなし――信託をきちんと理解している専門家がほとんどいない……宮崎 裕二
●最近の土壌汚染対策の動向と今後の対応策の提案……八巻淳
●住宅の政策課題と民間の不動産投資――今後、大都市における住宅政策はいかなる方向に転換すべきか……山口幹幸
●これからの土壌汚染対応と専門家の役割……油井泰作
●借地借家法改正への提言――建物譲渡特約付借地権・事業用借地権・終身借家権について……吉田修平
●「止まっている案件」を一歩進める選択肢の提示と事業性評価――土壌汚染地の有効利用の促進のために……吉野川健一
○都市法研究会300回を迎えて……丸山英氣
○都市法研究会300回を振り返って――それは不動産の歴史でもある……鵜野和夫★都市法研究会小史【第1回(1983年(昭和58年)~第300回(2016年(平成28年)
■企業・業界分析レポート①ホテル業――業績および株価好調、しかし債務超過のマリオット……岡崎一浩
■マンション法の現場から〈第12回〉管理者解任の逆転判決(下)……丸山英氣
■中国における不動産登記制度の統一化について(下)……江利紅
貸宅地に係る裁決事案と鑑定評価-収益還元法に活躍の場はないのか
著者はJFEライフ株式会社に勤務する黒沢泰さんです。不動産鑑定士に関する著書がたくさんあるので、業界では有名な方です。
相続税の財産評価に当たって、収益還元法はなぜ認められないのか。どのようにすれば収益還元法が認められるようになるのかについて書かれています。
題材は国税不服審判所平成15年9月2日採決(裁決事例集No.66、265頁)です。
参考:国税不服審判所|貸宅地
この事案では、貸宅地の評価においては一般的に借地権価額控除方式に合理性があるものとされ、請求人らが採用した(不動産鑑定評価書も添付)収益還元方式の「純収益」や「還元率」は標準的なものとは認められないものとして、請求人の主張した収益還元方式が排斥されました。
東日本大震災により液状化した地域および周辺の地価動向
今年4月には熊本地震もありましたが、地震大国である日本においては震災は避けて通れません。本論文では地震による液状化により地価がどのように変化していたのかを東日本大震災を例にあげ個別具体的に分析しています。
分析されている地域は
- 千葉県浦安市
- 千葉県千葉市
- 千葉県習志野市
- 千葉県我孫子市
- 茨城県鹿嶋市
- 茨城県神栖市
- 東京都江東区
の7地域です。
いずれも震災後は地価の下落が目立っており、浦安では15%近い地価下落が見られたと分析されています。
執筆者の内藤武美さんには土砂災害防止法などの著書もあります。
参考:[書籍紹介]Q&A土砂災害と土地評価 警戒区域・特別警戒区域の減価率の算定法
プログレス社のホームページを見て知ったのですが、農地の評価についての書籍も最近出されたようです。
一評価人から見た機械設備評価の現状
機械設備の評価ニーズについてはどれほどあるのかは分かりませんが、裁判所の司法競売の評価に携わっていると、工場財団の一つとして機械器具を評価しなくてはいけない局面が少なからずあります。
機械設備評価についても関心を持っていたんですが、評価士のライセンスを発行している団体があるとは初めて知りました。論文をよむとまだまだ世の中に浸透しているとは言えないようですが、動産担保融資(ABL)などもありますしいずれは広がりを見せるんじゃないでしょうか。
まとめ
不動産鑑定に関する雑誌としては、月刊誌の不動産鑑定が有名です。しかしながら、内容はうすっぺらで最近は読むべきものが減ってきているような気がします。
冒頭の座談会では面白そうな特集が組まれることも多いですが、その後に続く論文には面白いものがほとんどありません。
参考:不動産鑑定士の業界紙の雄、「不動産鑑定」がつまらない雑誌となっている
Evaluationと不動産鑑定、鑑定評価の2大雑誌として鑑定評価の普及発展に寄与してもらいたいものです。