先日尖閣諸島の登記と今までの所有者の遍歴について調べた記事を書きました。
参考 未だ領有権争いが続く「尖閣諸島」の登記を調べてみました。
調べて行くと、尖閣諸島の不動産鑑定評価に関する資料も公開されているじゃないですか。不動産鑑定士としてはやはりこちらもまとめておきたい。ということで不動産鑑定評価に関する部分だけ抜粋して紹介してみたいと思います。
元レポート 東京都尖閣諸島現地調査(調査報告書PDF)
調査の前提
評価の対象不動産である尖閣諸島を現地調査する前提として、島に関する公的資料、文献、関係者への聞き取りなどから次の基本的事項を確定した。
1.「所在地」は、不動産登記簿などにより、尖閣諸島3島それぞれ全島一括としての地番、地目、地積を確認し、下記のとおりとする。
- 沖縄県石垣島字登野城魚釣島2392番、地目原野、3,641,983㎡
- 沖縄県石垣島字登野城北小島2391番、地目原野、258,842㎡
- 沖縄県石垣島字登野城魚釣島2390番、地目原野、324,628㎡
2.「権利種別」は、国が所有者と契約し賃借権者として対象不動産を使用しているが、所有権の価格とする。
3.「土地利用類型」は、対象不動産の過去の使用等に係る工作物等の存否、賃借権使用権の有無にかかわらず完全所有権の土地として、更地の価格とする。
4.「価格の時点」は平成24(2012)年8月1日とする。
5.「評価の目的」は対象不動産である尖閣諸島3島の一括買収とする。
調査の目的
現地調査は主に次の2点を目的として行った。確定した尖閣諸島の基本的事項について、現地における照合と確認及び評価算定に影響を与える所要因の調査を目指した。不動産鑑定評価基準によると、「対象不動産と当該不動産の現実の利用状況を照合して確認する実践行為」が要請され、国土交通省訓令第86号「土地等の取得を行うときは現地調査を行い、土地及び土地に定着する物件について概況を把握しなければならない」などの規定からも必要な手続きとして行うものとする。
1.現地状況の確認
「現地状況の確認」とは対象不動産である尖閣諸島3島の物的な確認として、土地及び土地に定着する工作物などの物件について、地形、地勢、現況及び形状並びに種類、数量、構造等を調査するものである。正確な数量チェック等を行うものではなく、評価担当として事前に得られた図面、資料との照合、確認が主な内容である。本船及び小型船から目視等により可能な限り観察した。
2.価格形成要因の調査
「価格形成要因の調査」とは対象不動産である尖閣諸島3島の評価算定をするに際して、その価格に影響を与える要因を調査するものである。地域的要因と個別的要因に分け、地域的要因の分析としては石垣島を含む八重山諸島、尖閣諸島海域に及び地域的特性とその範囲、島嶼群の状況(標準的使用)を探求した。また、現地は石垣島から170kmの位置にあり定期航路もないため、接近困難である。交通接近条件としての距離感の把握、地域の交通利用状況及び公的規制等も考察した。個別的要因の分析としては対象不動産として魚釣島、北小島、南小島の推察した。対象不動産3島の現在の状態を生態的に把握することに加え、価格形成要因としての将来の動向、見込みお動態的に観察の対象として調査した。これらの調査項目はたぶんに重層的で相互関連性があるため、明確な区分により調査できないが極力意図して行った。
調査の内容
調査は対象不動産である尖閣諸島3島の評価に必要な範囲として次の項目を対象とした。
魚釣島、北小島、南小島の現況の確認
- 対象不動産3島の地形等に係る諸資料との相違の有無
- 地積補足の基本となる満潮時の海岸線、領海線の企保んとなる低潮線
- 土地利用の基本となる平坦地の様相、地積、地質
- 地形の変化に影響するがけ地、崩落個所の状況
- 陸地線の変化可能性を見極める岩礁の色合い、貝類の付着状態
魚釣島、北小島、南小島の自然的、社会的及びその他条件
- 日照、気温、潮流、透明度、風速・風向、波高・波高などの気象
- 標高、崖地と傾斜地及び平坦地の有無、割合、位置関係などの地勢
- 土壌、沿岸の岩盤、岩石、岩礁など地盤及び地質
- ヤギの存在、海鳥の動き、植生の分布など動植物の生態
- 周辺海域における漁船など民間船の動き
- 3島への接近性、所要時間
魚釣島、北小島、南小島の利用可能性など将来動向
- 海外線の状態と入り江の状況
- 水の存在を示す滝、湧水などの有無
- 平坦地の地積、広がり、傾斜地の有無
- 稀有な自然環境、良好な漁場の確認
- 公共公益用施設設置の有効性
調査地点及び日時
調査は平成24(2014)年9月2日(日)本線と小型船により行い、次のお区域に整理し調査した。下記時間はおおむね小型船による調査時間
- 魚釣島周辺(北側):7時~9時
- 魚釣島周辺(南側):7時~11時
- 北小島と南小島の間:13時15分~14時
- 北小島周辺:14時~14時30分
- 南小島周辺:14時30分~15時
調査方法
調査は本線から尖閣諸島3島それぞれの全体地形、状況の把握、小型船からの沿岸状況、陸地の観察御行い、価格評価に必要な範囲と制度及び可能な手段により次の方法で実施した。
- 肉眼による目視又は双眼鏡による観察
- デジタルカメラによる撮影画像の即時確認
- 沖縄開発庁調査結果(昭和54年)などに記載された地形図等諸資料と照合チェック
- 海洋学者、海洋生物学者など専門家、環境、港湾など関係者の意見聴取
調査結果
対象不動産である尖閣諸島3島の現地調査の結果として、次の通り報告する。価格評価における現地調査では、正確な内容、数量を意識し観察するも、概況の調査として事前資料との照合を中心に行った。評価担当として、尖閣諸島の概況の把握を目指し確認、把握、探求に務めた。物的確認としては、本線から島全体の概観、小型船から沿岸調査をしたが、島の地形、形状等に大きな変化は認められなかった。自然的、社会的及びその他の条件の把握としては、事前資料と照合、現地状況の観察からより実践的に行った。価格に影響を与える将来可能性は専門家の意見を聴取し、過去の調査資料も併せて参考とし探求した。
魚釣島、北小島、南小島の現況と物的確認
1.魚釣島
魚釣島は、地形図等と現況を目視により照合し確認したが、地形等に特に顕著な相違箇所は認められなかった。南部はほとんどが断崖絶壁で崩落個所も多く、海岸に至るほどの規模の大きいものは島の面積にも影響する懸念がある。平坦地は既存図面とほぼ一致していると思料される。北西部は開拓当時から利用された平坦地として残置された旧工作物が見られ、頭部は最も広い平坦地が確認された。海岸線に近い海底は遠浅の箇所、ある程度推進の有る箇所があるものの、岩盤と付着したサンゴで覆われた状況であり、島の形状に影響するほどの変化があるとは認められなかった。
2.北小島
北小島は、地形図等を基に目視により観察したが、地形等に顕著な変化は認められなった。北部は切り立った岩山が連なり、南部の岩山の山頂部は平たんな草地になっている模様である。
3.南小島
南小島は地形図等と現況を目視により調査したが、島の形状等に大きな変化は認められなかった。西武は鰹節工場があったと言われ、石積跡も見られ比較的なだらかな土地である。頭部はほとんどが平坦地であり、波の影響も懸念されるほどの低地と見られる。
魚釣島、北小島、南小島の自然的、社会的及びその他条件の把握
1.魚釣島
魚釣島は、石垣島から170kmに位置し定期航路はない。諸資料、文献による調査結果を基に自然的条件を目視により観察したが、特徴的な変化は確認できなかった。特に地勢は、北西部はなだらかな傾斜で平坦地もあるが、南部はほとんど断崖絶壁、北東部は北向き傾斜で数か所の小さな渓流、湧水が見られた。植生はクバでおおわれているが、野生ヤギが北部で見られ、食害の影響なのか表層度の流出も見られた。会長類はほとんど見られなかった。
2.北小島
北小島は、魚釣島の南東約5kmに位置している。諸資料、文献による調査結果を基に観察し自然条件等について確認した。地勢は、島全体が険しい岩山で、南部にある最高頂約120mの岩山ほか2つの岩山があり、海岸から切り立った崖である。植生はほとんど見られないが、海鳥類の群れが顕著であった。
3.南小島
南小島は、魚釣島の南東約5km、南小島の南東200mに位置している。諸資料、文献による調査結果を基に観察し自然条件等について確認した。地勢は、西端に高さ約140mの岩山及び東端い高さ約90mの岩柱が存在するが、東部はおおむね平坦地となっている。植生は東部の平坦地に群生しているとみられる。海鳥類は西武の岩山に顕著であった。
魚釣島、北小島、南小島の利用可能性など将来動向の探求
1.魚釣島
魚釣島は、旧船着き場跡も見られる北西部、平坦地が広がる東部などを観察した。渓流、湧水など水の存在も確認できたが、飲料水になる可能性は確認できなかったこと、宅地になる条件としての供給施設または交通接近条件を考慮すると現時点において、宅地として適切性の判断はできない。自然環境を保全しながら、通信施設、航海標識として灯台の設置など公共交易用施設の土地となる用途は有効と見られた。
2.北小島
北小島は、平坦地も少なく岩山が切り立っているため、宅地化は困難と思料される。ただし、希少な動植物が多く存在するため自然環境の保全を図りつつ、良好な漁場として漁船が多く訪れる可能性があるため、さらなる詳細調査は必要ながらも、交易用施設の整備の可能性は期待される。
3.南小島
南小島は、東部がほとんど平坦地のため利用可能性はあるが、宅地化の可能性は未知数と推察される。ただし、希少な動植物が多く存在するため、さらなる詳細調査は必要ながらも、自然環境の保全を図りつつ、北小島と南小島間には交易用施設の整備の可能性は期待される。
まとめ
鑑定評価書は公開されていませんが、現地調査の調査方法・その結果などが東京都のホームページに公開されていました。
現地調査も様子も動画や当日の写真などが公開されています。
写真は素人ではなく、フォトジャーナリストの”山本皓一”さんという方が撮影されているようです。
参考 山本皓一ホームページ
「尖閣・竹島・北方領土 知らなきゃヤバい国境問題」という書籍の著作もあるようなので、領土問題についても取り組んでいる方のようですね。