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課税のための指標なのか-実勢と大幅乖離の公示地価【週刊エコノミスト】

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2018年5月15日号の週刊エコノミストは「固定資産税を疑え!」という特集で、数々の固定資産税についての記事が記載されていました

その中で一つ気になったのが、「課税のための指標なのか-実勢と大幅乖離の公示地価」という不動産評論家”川上浩一郎”さんの書いた記事です。

結論からいうと、「地価公示価格は実勢価格と乖離しているので、その分納税者の税負担が大きくなっている。」と地価公示制度を批判する記事ですが、中身を読むと全く内容のないものとなっています。

そもそも、不動産評論家「川上浩一郎」って誰?という感じです。

現役で不動産鑑定士をしている私が「課税のための指標なのか-実勢と大幅乖離の公示地価」の気になる部分にツッコミを入れていきたいと思います。

記事は次の3つから構成されています。

記事のタイトル

  • 評価方法は3種類
  • 2人の鑑定士で評価
  • 「正常」という大前提

評価方法は3種類

批判の元が推測

記事を引用します。

町村によっては前年度からの変動率を住宅地〇%、商業地△%などと、用途ごとに一律的に処理しているところもあると聞く。

まるで何も考えずに前年度の価格から〇%を増減させて価格を付けているような書き方です。

全部同じ変動率で価格付けされている都道府県でもあるんでしょうか?あるとしたら何県なんでしょうか?根拠もないのに批判したいという想いが強すぎて想像が過ぎてしまっています。

もちろん前年からの変動率は考慮します。絶対的な価格水準と同様、前年からの下落率・上昇率も重要な要素です。

変動率を考慮することは当然のことで、鑑定評価基準にも”「鑑定評価先例価格」は鑑定評価に当たって参考資料とし得る場合があり”と明記されています。

地価公示や鑑定制度を批判したいのなら、最低限鑑定評価基準は勉強していただきたいものです。

現在の日本で取引事例比較法はさまざまな限界を抱えているが、誰も議論しようとしていない

鑑定評価の3手法はどれも完全ではありません。完全な手法があれば、それ1つを使えば良いですね。

”現在の日本で取引事例比較法はさまざまな限界を抱えているが”と書かれていますが、もう少し具体的に書いて欲しいものです。多分、書いている方は取引事例比較法のどこに問題があるのか、そもそもどのように計算をしているのかを分かっていないのだと推察できます。

2人の鑑定士で評価

特に、使い道が限られる土地の場合は2~3倍も評価が異なることもあり、不動産鑑定士の数だけ価格が出てくるともいわれている

不動産鑑定士のだす価格は2~3倍もの差があるような書かれ方がされていますが、この一文は「原価法」の説明の中での一文です。

実務に携わっている鑑定士にとっては常識ですが、一般の宅地の評価をする際に「原価法」は用いません。そのため、2~3倍の評価のバラつきがあるという批判はトンチンカンなものです。そもそも原価法は適用しないんですもの。

また、”不動産鑑定士の数だけ価格が出てくる”とも書かれています。

これは当然のことです。

鑑定評価基準には、「不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといってよいであろう。」との一文があります。

鑑定評価額は単純計算によって求められるものではありません。色々な段階で専門家が専門家としての判断し、鑑定評価額を決定します。

鑑定評価額が異なってくるのも当然です。

地価公示価格は前年の価格を前提に今年度の価格を決めているが、幹事が決めた価格と異なる価格をつけた鑑定士からすると、前年からの地価変動率をめぐってある矛盾が生じる

この不動産評論家の方は、「矛盾」という用語の意味を分かっているんでしょうか。

評価をする2人の鑑定士が異なる考えを持っていれば、結果として鑑定評価額は異なってきます。それは矛盾でもなく当然のことです。

逆をいえば、みんな一緒の考えでないとまずいんでしょうか?

「正常」という大前提

「正常」な前年の地価公示価格から、大幅に引き下げる根拠を説明するのも簡単ではない。そのため鑑定士は大幅に価格を引き下げることをちゅうちょするようになる。(中略)実勢価格との乖離は年々拡大するようになる

全国的にみて、大きな上昇率、下落率を示した地価公示地点は、他の地点よりも詳細な説明を求められるのは事実です。

でもそれって当然ですよね。全国でトップの上昇率・下落率を示したのならばそれなりの理由があるはずです。逆をいえば、それなりの理由があれば、大きな変動率を示したとしても十分に説明が可能です。

実勢価格と地価公示価格との乖離を主目的とした記事のわりには、データを示すわけでもないですし、具体的な根拠はありません。

さきほども書きましたが、全てが想像の中で論理構成されています(論理的ではないですが...)。

固定資産税評価額の半分以下でしか売れない土地も珍しくない。一方、東京など大都市部では、地価公示価格の数倍で取引される事例は数多くある。

筆者の方は実際に不動産を扱ったことがないのでしょう。

不動産の取引価格は一定だとでも思っているのでしょうか?大規模な分譲住宅地でもない限り、同じような金額で取引される方が稀(まれ)です。

特に供給が少なく、需要が集中する大都市部では価格のバラつきは大きくなります。

ある程度の範囲に価格が収れんするのは、豊富な需要と供給がある不動産マーケットのみです。

供給が極めて少ない大都市部、需要が極めて少ない農村へき地では、取引価格もばらばらになります。それこそ地価公示価格の半値で取引されることも多くあります。

これが不動産市場です。

次が、この記事の締めの一文です。

本来の価値と乖離した地価公示価格のツケは、やがて納税者に税負担という形で跳ね返ってくる

この一文を書きたいがために、一生懸命文章を書いたのでしょう。

しかし、鑑定制度や不動産市場を知らないがために、論法がめちゃくちゃです。「本来の価値と乖離した地価公示価格」の部分が全く説明されていませんからね。

そもそも不動産評論家「川上浩一郎」って誰?

そもそも不動産評論家「川上浩一郎」って誰なんでしょうか?

ほかにはどのような記事を書いているんだろうと検索してみても、このエコノミストの記事しか見当たりません。

不動産鑑定士協会連合会の会員検索でももちろん出てこないので、不動産鑑定士でもなさそうです。

不動産業を営んでいれば、名前ぐらいは検索でヒットしそうですが、不動産業を営んでもいないようです。

不動産評論家を名乗っていらっしゃいますが、どれだけ不動産のことを知っている方なんでしょうか?

まとめ

この記事は、地価公示価格は実勢よりも高いので納税者の負担となっている。という批判がしたいがための記事のような気がしてなりません。

このほか、固定資産税に関する記事も多数記載されているので、気になる方は是非読んでみてください。

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