おはようございます。不動産鑑定士のreatipsです。
先日「裁判 鑑定評価」で検索したところ気になるホームページが目に留まりました。不動産鑑定士さんの会社のホームページだったんですが、訴訟に強いことを売りにしており、その一つとして簡易鑑定を前面に出したPRをされていました。
さて、簡易鑑定とは何でしょう?
簡易鑑定とは
まず簡易鑑定という言葉は現在は使われていません。ですので、以前どのようなものが簡易鑑定と呼ばれていたのかで説明しましょう。
不動産の鑑定評価は、「不動産の鑑定評価の法律」や「不動産鑑定評価基準」という制約もあり、必要以上に分厚く説明が長いです。結果、鑑定報酬もそれなりに高いものなってしまいます。
しかしながら、もっと簡易なもので良いから低料金で迅速に出せる評価書が欲しいというニーズが少なからず存在しました。
そんなニーズに対して生み出されたのが、分析や記述や鑑定評価手法の一部を省略した簡易版の鑑定評価書です。タイトルは「意見書」「調査報告書」などさまざまでしたが、簡易な鑑定評価ということで簡易鑑定と呼ばれていました。
しかしながら、このような簡易な書類には何も基準や制限がなかったことから発行する不動産鑑定業者によって体裁はまちまちで、書かれている内容もばらばらでした。
そこで監督官庁である国土交通省から簡易な評価に対してのガイドラインがまとめられ、平成22年1月に施行されました。
参考 不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン
参考 不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン運用上の留意事項
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価格等調査ガイドラインとは
このガイドラインは略称で価格等調査ガイドラインと呼ばれています。
まずこのガイドラインが必要となった背景を国土交通省のホームページから抜粋します。
不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う場合、不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日国土交通事務次官通知)に則って行われることが原則ですが、依頼者のニーズの多様化や企業会計における不動産の時価評価の一部義務化、CRE(企業不動産)戦略の進展等を背景に、不動産鑑定評価基準によらない価格等調査のニーズの増大が想定されます。
一方で、このような業務では、低廉かつ短期間で結果を得たいがために、依頼目的や結果の利用範囲等に見合わない簡便なものが依頼されたり、簡便な価格等の調査が不動産鑑定士・不動産鑑定業者が認識していた範囲を超えて利用され、トラブルが発生する可能性をはらんでいます。
上のような理由も一つですが、国土交通省がガイドラインを策定した理由として宅建業者の査定書も大きな理由の一つとしてあったと聞いています。
宅建業者の査定書は鑑定法に違反するものが世の中に蔓延している訳ですが、その査定書の内容もしっかりしたものもあれば、適当なものもあります。適当なのは宅建業者の査定書の内容を規定する基準が何もないので(本来法令に違反しているので無いのは当たり前ですが)仕方ありません。
いい加減な査定書をもらった依頼者からのクレームは当然のように監督官庁である国土交通省にいきます。国交省としては不動産鑑定士の価格等調査のガイドラインを整備することによって、媒介契約を前提としない宅建業者の査定書は不動産鑑定評価に関する法律に違反をしていることを明確にし、簡易なものでも鑑定評価の枠組みの中で統制を取りたかったようです。
このガイドラインの施行によりいわゆる簡易鑑定(簡易なもの)といわゆる本鑑定(本来の不動産鑑定評価)とは次の2つに整理されました。
鑑定評価の種類
- 本鑑定…不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価
- 簡易鑑定…不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査
価格等調査という単語が初めて出てきました。
「価格等調査」とは、不動産の価格等を文書等に表示する調査をいう。なお、価格等調査は、不動産の鑑定評価に関する法律第3条第1項の業務(鑑定評価業務)の場合のほか、同条第2項の業務(いわゆる隣接・周辺業務)の場合がある。
引用:価格等調査ガイドライン
価格等調査は不動産鑑定士の独占業務であり、それは不動産鑑定基準に則ったものであるか否かは問わないことが、このガイドラインによってはっきりと明文化されました。不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示する行為は不動産の鑑定評価に関する法律に規定する鑑定評価に該当します。
鑑定評価と基準に則らない価格等調査
不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価と不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査(簡易なもの)はいずれも鑑定法第39条1項の鑑定評価書として扱われます。
しかしながら、不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査については、その成果報告書のタイトルを「鑑定評価書」とすることは禁じられています。
参考 鑑定協会|「価格等調査ガイドライン」の取扱いに関する実務指針
それどころか、類似した名前も禁止されており「鑑定」や「評価」という用語を用いることもNGです。ですので通常は「調査報告書」「意見書」「価格調査書」などというタイトルで書類が作成されます。
タイトルだけでなくその本文にも「鑑定評価額」「鑑定」「評価」などの用語を使うことは禁じられています。
「(不動産)鑑定評価書における調査価格等の表示である「鑑定評価額○○まる円」との違いを明確にするために、調査価格等の表題には「鑑定」又は「評価」という用語を用いた「鑑定評価額」に類似した名称(「鑑定調査額」「価格評価額」「簡易鑑定額」「概算評価額」等)を用いず、「調査価格」「調査価額」「意見価格」当の標題とするものとする。
再度、簡易鑑定を考える
さて、簡易鑑定について少し書いてみたくなったのは前述のとおり、裁判に強いと歌う不動産鑑定士が安易に「簡易鑑定」という危険に満ちた単語を平気で使っているからでした。
価格等調査のガイドラインが整理されることによって、不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査は、「意見書」「調査報告書」などのタイトルを用いることが求められています。簡易なものに「鑑定」「評価」という用語を用いることは禁じられていますので、簡易な鑑定評価というものは存在しないのです。
簡易なものにも鑑定法の鑑定評価には該当するけれども、「鑑定」「評価」という単語を使ってはいけない。というのは紛らわしいですね。ですが、これが国交省や鑑定協会が求めていることです。
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まとめ
未だに簡易鑑定をうりにしているホームページはたくさんあります。理解が不十分ですし、正直意識が低い人だなという印象を受けます。調べてみたら簡易鑑定だけでなく「要約鑑定評価書」なんていうタイトルで発行している鑑定業者もいるようです。
再度書きますが、簡易鑑定は存在しない!のです。
簡易鑑定は存在しない!
そんな人が「裁判絡みの不動産鑑定なら日本一!」なんてことを掲げ、「訴訟鑑定研究会」なるものを立ち上げている鑑定評価の現状にうんざりしてしまいますね。
鑑定評価基準の改正に全く対応していない評価書を発行しているような人の方が稼いでいるような変な業界ですから致し方ないのかもしれません。