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「不人気資格の不動産鑑定士が「穴場国家資格」に一変!?」についての雑感

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週刊ダイアモンドで「不人気資格の不動産鑑定士が「穴場国家資格」に一変!?」というタイトルの記事が書かれました。

記事を要約すると、試験受験者が3分の1にまで激減してしまった不人気資格の不動産鑑定士。しかし一部では若手鑑定士の人材獲得は激化しており、鑑定士の大部分を占める60代以上の引退にともなって、今後穴場のねらい目国家資格に変わるのでは?という内容です。

実際の不動産鑑定業界の片隅に存在する現役鑑定士として雑感を残したいと思います。

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不動産鑑定士試験は不人気なのか?

不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度」にも書いていますが、短答式試験の受験者は4,605人から1,568人と10年間(2006年→2016)で3分の1となっています。

参考 不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度

平成28年の論文式試験では最終合格者の平均年齢が35歳です。

記事で35歳以下の有資格者の求人が激化していると書かれていましたが、35歳以下の論文試験合格者は103人中52人。おおよそ半数が35歳以下です。論文式試験の合格の後には実務修習が控えており、全て諸々が終わってから晴れて不動産鑑定士となれると考えると、資格取得時の平均年齢は37~38歳といったところでしょうか。

平均年齢は余談ですが、受験者激減から考えるとやはり鑑定士試験は不人気なんでしょうね。

鑑定士試験受験者数はなぜ減少しているのか。

記事では不動産鑑定士試験の受験者減少の理由は試験の難しさと書かれています。果たしてそうなんでしょうか?

上の短答式の受験者数と短答式の合格率のグラフを見て分かるとおり、合格率は年々上昇しています。

短答式試験の次のステップ、論文式試験の受験者数・合格率を見ても同様の傾向です。受験者数の減少と合格率の上昇が見てとれます。

不動産鑑定士試験(論文式)の合格率の推移

このグラフからも見て分かるとおり、試験の難しさだけが受験者数の減少を招いているわけではなさそうです。

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不動産鑑定士試験は割に合わない

鑑定士試験の受験者数の減少している理由としては、試験の難易度とその後予想できる収入の釣り合わなさなんじゃないかと現役鑑定士としては分析しています。記事の中にも鑑定士事務所の売上の話が出ていますがまさしくそのとおりだと思います。

難関をくぐり抜けて鑑定士になったとしても、地方では報われない。東京、名古屋で不動産鑑定士事務所を運営する桜木不動産コンサルタントの武藤悠史取締役は、「鑑定士業界は大都市部に大手事務所が数社。ほか、大部分が3人以下の事務所。中小の場合、1事務所当たりの売り上げも年間700万円前後と少ない上、特に地方では公共事業の減少で苦しくなっている」と明かす。

試験が難しいわりには合格後の夢や希望も抱けない。そんな環境で受験者の増加が見込めるのでしょうか。

高齢層の減少により若手の仕事は増えるのか?

不動産鑑定士の年齢層は60代以上が4割を占めると書かれています。確かに私のまわりを見回してもほとんどが60代以上。50代でさえ少ないです。50代よりも70代の方が多いんじゃないかな?という状況です。

鑑定士は高齢化が顕著で、登録者の4割超が60歳以上なのだ。このままいけば、不動産価格の鑑定に時間がかかるようになり、遺産相続にも影響してしまう。

記事では高齢者層が引退することにより、鑑定評価の担い手がいなくなってします。その結果、遺産相続など増えるで予想されるニーズに不動産鑑定士が対応できなくなるんではないかと分析されています。

現場で働いていると思うことは、鑑定士はなかなか引退しない。ということです。公的な仕事の中には年齢制限が設けられているものがあります。

裁判所の競売評価や国や県の地価公示・地価調査事業が代表的ですね。

その他のほとんどの仕事は何歳まででも続けられます。大手の鑑定業者では定年がある会社も多いですが、それは会社の定年です。会社を定年後、自分で開業してその後10年、20年と仕事を続けられる人は多いです。

高齢者世代の活躍という意味ではなかなか貢献度の高い業界なんじゃないでしょうか。

反対の意味でいうと、若手にはなかなか美味しい仕事が回ってこないですし、高齢世代が多いとはいえこの現状がすぐに変わることはないと考えています。

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今後どうなる?

今国土交通省では、受験制度改革に取り組んでいます。この話題については下の記事に書いているのであまり触れませんが、司法試験を簡単にして法曹界の門戸を広げたことにより、弁護士業界をはじめとする司法試験合格者がどのような状態になったのかをよく考えてもらいたいものです。

参考 不動産鑑定士試験難「易化」で、鑑定士受験者数は増える?

不動産鑑定業法の改正により業務の拡大が議論されていますが、どの程度仕事が増えるの?とこの取り組みについても懐疑的です。

受験者の減少は司法試験などを代表とする士業(資格産業)全般に見られる構造的なものなんじゃないでしょうか。「H29年司法試験の結果発表。受験者数、合格率の推移と難易度をまとめてみました。」にも書きましたが、同様に司法試験受験者は減少しています。ピークに比べて7分の1まで減少しているのではるかに不動産鑑定士試験よりもひどいありさまですね。

それでも法曹界は合格者数を減らすように国へ申し入れています。

受験者数減少を危機として鑑定士増加を目論む鑑定士業界。弁護士を食える資格に戻すために合格者数減少を叫ぶ法曹界。さてどちらが正解なんでしょうか。

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士業とは?士業には何がある?などと、士業についてまとめた記事「士業とは?士と師の違い、8士業とは何か?士と師のつく仕事をまとめてみました。」も書いています。是非読んでみてください。

士業とは?士と師の違い、8士業とは何か?士と師のつく仕事をまとめてみました。




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