不動産鑑定士に対する懲戒処分が発表されました。
ひと口に懲戒処分といっても、監督官庁である国土交通省の懲戒処分と不動産鑑定士の業者団体である(公社)日本不動産鑑定士協会連合会(以下、連合会と呼びます)の懲戒処分の2つがあります。国交省と連合会の懲戒処分が合わせて一人の鑑定士になされることもあれば、各々の懲戒処分だけがなされることもあります。
今回記事にするのは連合会の懲戒処分です。
2016年10月13日ですが、連合会会員に対する懲戒処分が公表されました。懲戒処分が決定したのは第312回理事会なので、文書の日付は理事会が開催された9月26日になっていますね。懲戒処分決定から3週間ほど公表に時間がかかるようです。
懲戒処分とは
懲戒処分の文章には「定款第 13 条の規定に基づき」と記載がありますが、定款第13条とはどのような条文でしょうか。
URL:連合会ホームページ|定款
(懲 戒)
第 13 条 会長は、次の各号の一に該当する事実がある会員を懲戒することができる。
- 法令等によって処分を受けたとき。
- 鑑定法第 3 条第 1 項及び第 2 項の業務につき不動産鑑定士の品位又は信用を傷付ける行為があったとき。
- 定款、規則、規程又は総会の議決に違反する行為があったとき。
- 本会の名誉を傷付け、又は目的に反する行為があったとき。
- その他懲戒すべき正当な事由があるとき。
具体的には、懲戒規程が別に定められているので懲戒規程に基づき綱紀・懲戒委員会の審議、理事会の審議を経て懲戒処分がくだされます。
連合会の懲戒処分をみていると、そのほとんどは不動産鑑定評価基準や価格等調査ガイドラインの違反、倫理規定順守義務の違反ですね
懲戒処分の内容
今回の懲戒処分の内容は戒告でした。
注意といった意味合いを持ちますが、賞罰の欄に記載しなければならない事項になりますし、各種公的評価を引き受けることができなくなる可能性もあるので大きな処分ですね。
今回は、国土交通省の懲戒処分が先になされており、後追いで連合会の処分がなされた形となります。
懲戒処分の理由
懲戒処分の理由については、公表資料に詳細に記載されています。長いですが公表資料を引用します。
隣接地との境界、接道状況、私道部分の権利関係の確認が不充分であるなど、
対象不動産の確認・確定において、誤記や調査不足がある。また、現況山林の
急傾斜地にもかかわらず、傾斜度、標高差などの状況記載が不充分である。地
域要因・個別的要因の確認が不充分のため要因比較が適切に行われていない。
会員限定の公表資料には対象不動産の所在地番も記載されていますが、非常に大きな大規模地です。隣接地との境界は全部が全部を確認することは不可能だとは思いますが、調査範囲等条件等で逃げておく必要があったんじゃないかと思いますね。
現況山林で大部分が傾斜地にもかかわらず、土地の種別を一律に「宅地」、
不動産の類型を「更地」とし、近隣地域の標準的使用との整合性が不明確なま
ま最有効使用を「観光保養施設(リゾートマンション)の敷地」と判定し、実
現性に説得力がない。
この判断は非常に難しいです。現況山林の最有効使用を観光保養施設の敷地と判断するのか、現況の山林と判断するのかで大きく価格には差異が生じます。実際懲戒処分の多くが開発素地にかかるもので、安易に開発されることが最も合理的!と判断してしまって、処分される例が多いですね。連合会の方でもどのような場合に開発が合理的なのかをもう少し具体的に示した方が良いんじゃないかと思います。複雑な案件の場合、鑑定士はみんな手探りの中で評価を行っています。頼りになる指針がない中で様々な判断を下さなくてはいけないのはとてもリスキーです。
対象不動産は大規模な土地であるが、取引事例比較法は規模や用途の異なる
標準的画地(規模 200 ㎡)を設定し、戸建住宅地に係る小規模な取引事例のみを採用して比準を行い、個別的要因の比較も商業的要素を含む+60 と判定するなど、合理的な根拠に欠ける部分が見られ的確な手法を用いた鑑定評価とは言えない。
「+60」の妥当性はともかくとして、大規模地に200㎡の標準的画地はちょっと無理があるかなという印象は拭えません。200㎡の土地の値段を出して、その後大規模地の価格を導くわけですが、規模が大きいことによる減価率はいくつぐらいなんでしょう?全く見当もつきませんね。△50%とかをエイヤーと行ったんでしょうか。
想定する建物(リゾートマンション)の規模、構造、配棟計画、住戸数の根
拠が不明確であるうえ、市場分析に基づく分譲単価の査定根拠が不明確なまま
開発法を適用し実現性の薄い説明力の欠如した評価を行った。
ここまで大きい開発素地の評価となりますと、イチ鑑定事務所だけでは手に負えません。当然、開発想定にはそれなりのデベロッパーに造成費や建物を想定してもらわないと評価できません。しかしながら、納期や報酬の関係で外部に発注することができない場合も多いと思うんですよね。そんな場合は依頼を謝絶するというのが模範解答なんでしょうが、そうは言ってられない事情もあるかと思います。無い知恵を絞りだして何とかするのか。悩ましいですね。
価格等調査ガイドラインの定める依頼書兼承諾書、確認書を取り交わしてい
ない。
これって意外かと思いますが、結構多いと思います。おじーさん鑑定士の方なんてそもそもガイドラインなんてほとんど知りませんからね。連合会の怠慢も大きいです。会員への周知が甘いと考えられても仕方ないんじゃないでしょうか。最近なんてPDFで「周知徹底」なんて文章を出しておしまいですからね。
平成 27 年 1 月 27 日付けで国土交通省の懲戒処分を受けている。
先ほども書いたとおり、この鑑定士は国土交通省の懲戒処分をすでに受けています。下に書いた国土交通省ネガティブ情報等検索システム<不動産鑑定士>によると、平成27年1月27日には2人の不動産鑑定士が国土交通省から懲戒処分を受けていますが、今回の連合会の処分は1人。もう1人は今審議中?それとも難を逃れたのでしょうか。
まとめ
国土交通省の懲戒処分については、国土交通省ネガティブ情報等検索システム<不動産鑑定士>というページがあって簡単に調べることができます。過去3年分の懲戒処分については公表されています。名前が載らないよう気を付けて業務に臨みたいものです。