日経新聞電子版によると、宇都宮地裁で建物の固定資産税評価額が高すぎるとして減額を認める判決が出たようです。
宇都宮地裁で昨年12月、固定資産税を巡り関係者が注目する判決があった。栃木県那須塩原市の旅館が建物の税額が高すぎると主張した訴訟で、今井攻裁判長は「観光客が減っており、建物の需要とかけ離れている」と指摘。市側に税額算定の基礎となる固定資産評価額の一部取り消しを命じ、15%引き下げた評価額が適正だとした。
訴訟の概要
那須塩原市は総務省の固定資産評価基準に基づき湯守田中屋の所有する建物を約11,000万円、約6800万円と決定し、課税を行いました。
これに対して旅館の運営会社が固定資産評価資産委員会に審査請求の申し立てを行いましたが却下され、その後宇都宮地裁に固定資産税評価額の減額を求める訴えを起こしたようです。
主張としては、那須塩原地域の観光客が過去12年間で24%減少しており、そのため「需給事情による減点補正」を適用すべきという主張です。訴えられた那須塩原市は減点補正の適用は限定的に適用されるべきであり、今回の場合は適用の対象とならないと反論しました。
需給事情による減点補正とは?
固定資産税での資産評価に当たっては総務省の「固定資産評価基準」に則って評価が行われます。第一章が土地で第二章が家屋となります。
「需給事情による減点補正」は第3節非木造家屋の中の六番目、需給事情による減点補正率の算出方法に次のように規定されています。
固定資産評価基準第2章第3節6
(需給事情による減点補正率の算出方法)
需給事情による減点補正率は、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価額の範囲において求めるものとする。
家屋はどこにあっても同じ価格という訳ではなく、所在する地域によってその価額が異なります。例えば豪雪地帯にある家屋の場合、一般の市街地よりも需要が乏しいことから価格は低下することになります。そのような場合に使われるのがこの減点補正率です。
旅館に似たようなものでは、ゴルフ場のクラブハウスがよくこの「需給事情による減点補正率」によって減価されています。
平成23年12月9日の最高裁判決では、利用客の減少により集客力がなくなったゴルフ場の建物に対して58%という需給事情の減点補正率が適用された例もあります。
固定資産税の減額訴訟の判決
本件では、宇都宮地裁の今井裁判長は「観光客の著しい減少は建物の価値を低下させる」として、減点補正の適用を認め、15%の減額を命じました。理由としては観光客の減少だけではなく、当該旅館が土砂災害特別警戒区域内にあり、「大雨の際の交通が困難にある」等の事情も考慮されたようです。
土砂災害特別警戒区域内にあると、大雨の際の交通が困難になるという理由は全く分かりませんが、土地の減価要因として考えられていた土砂災害特別警戒区域が建物の減価要因にもなり得るということなんでしょうか。この点についてはもうちょっと要点を整理しないといけませんね。
市側は控訴する方針とのことですが、この判決により全国の旅館などに影響するんじゃないでしょうか。特に温泉旅館などは高額な固定資産税に苦しんでいるところが多いです。観光客が減少する中で、固定資産税の減額を求める声も大きくなっていきそうです。
需給事情による減点補正についてもう少し詳しく解説した記事を書きました。よろしかったら参考にどうぞ。