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不動産鑑定士試験難「易化」で、鑑定士受験者数は増える?

更新日:



不動産鑑定業をメインの業務としている者としては、気になる報道がありました。

土地や建物の価格を評価する「不動産鑑定士」制度に関し国土交通省は13日、資格試験を緩和し、合格後に定期的な研修の受講を義務付ける方針を決めた。受験者数が減少する一方、不動産証券化市場の拡大などで鑑定需要が拡大、多様化している状況に対応する。

引用 “不人気”不動産鑑定士、国交省が資格試験を見直し 試験の難しさ下げ、合格後に研修義務化

話自体はもう数年前から言われていたことなんですが、一体どうなるんでしょう?

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こちらの記事は鑑定士試験制度について書いたものです。不動産鑑定士試験の難易度、合格率について知りたい方はこちらの記事「不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度」をお読みください。

不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度(平成30年最新)

不動産関連資格の中で最難関と言われている不動産鑑定士試験。 平成30年10月19日(金曜日)に、監督官庁である国土交通省から平成30年不動産鑑定士試験合格者の発表がありました。 土地鑑定委員会では、8 ...

不動産鑑定士試験はどう変わる?

上の記事をまた引用したいと思います。

毎年1回行われる資格試験については、民法や会計学などの知識を問う論文式の2次試験に「科目別合格」を導入し、翌年受験する際には、合格科目の論文を免除。その上で合格後にも研修を受けるよう義務化し、鑑定士の専門性向上を図る。

税理士のような科目別合格制度が設けられるようですね。なかなか勉強時間が取れない社会人受験者には有利?な制度となりそうです。

不動産鑑定士の数

不動産鑑定士の数は平成27年1月時点の不動産鑑定士の登録者数は9,411人(不動産鑑定士補含む)。3年前の平成24年1月時点では、9,194人となっています。

3年間で200人強増加しています。割合としては2.4%増加です。

受験者数はピークだった2006年と比較すると約3分の1となっているようですが、国土交通省に登録している不動産鑑定士の数は増加しているようです。

国土交通省|不動産鑑定士・不動産鑑定業者の現状

平成24年に国土交通省が作成した不動産鑑定士等の現状を分析した資料がありますが、平成17年をピークに不動産鑑定業者に所属する不動産鑑定士等の数は減少しています。

不動産鑑定士の数は増加しているが、不動産鑑定業者に所属する不動産鑑定士の数は減少している。

この現象は何を意味しているんでしょうか?

これは単純に不動産鑑定士という仕事に、給料・やりがいという点で魅力が無いということではないでしょうか。

不動産鑑定業者に所属しないと不動産鑑定業務は行えません。不動産鑑定業者に所属しない不動産鑑定士としては、金融機関や官公庁などに勤められている人が多いです。資格は持っているけど、不動産鑑定士としての仕事よりは銀行マン、お役所の仕事の方がワリが良いと感じている人がそれだけ増えているんじゃないでしょうか。

反対からみると、不動産鑑定業がそれだけ儲からなくなっているということだと思います。

不動産鑑定士の平均年収

これもまた古いのですが、上の国土交通省の資料の中に、「不動産鑑定業者1業者当たりの平均報酬額の推移」というデータがあります。

国土交通省|不動産鑑定業者1業者当たりの平均報酬額の推移

1業者当たりの鑑定業の売上ですね。青のグラフは国土交通省登録なので、複数の県に事業所を持つ大手です。注目したいのは都道府県知事登録業者のオレンジ色の数字です。1業者に複数名の不動産鑑定士を擁する事務所もありますが、ほぼ1人鑑定士の事務所が多いんじゃないでしょうか。9割がた1人鑑定士です。

直近の数字では700万円です。売上が700万円。ここから経費を出さなくてはいけませんし、事務員を雇っていれば、数百万円すぐに飛んでいきます。

びっくりするほど少ないですね。

もっと分かりやすい資料が下にあります。

国土交通省|不動産鑑定業務に従事する不動産鑑定士等1人当たり平均報酬額の推移

これは鑑定士一人当たりの平均報酬額の推移。平成22年には589万円。これも売り上げベースです。ですので、給料としてはもっと下がります。

国土交通大臣登録の大手でも1246万円です。大手で事務員さんがいないところは無いでしょうし、事務所も比較的家賃の高いところに構えている場合が多いです。一人事務所(都道府県知事登録)に比べると経費も多くかかります。

受験者の方には酷な数字ですが、難関と言われる不動産鑑定士資格に合格したからといってもバラ色の人生が送れると思っていたら甘いということです。

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不動産鑑定士試験を易しくしたら鑑定士は増える?

国は不動産鑑定士受験者数激減の対応として、不動産鑑定士試験を易しくしようとしています。これによって不動産鑑定士希望者は増えるんでしょうか?

これは簡単な問で、答えは増える。と思います。

不動産鑑定士は認知度が低いということも要因の一つだと思いますが、「試験が難しい」ことから敬遠されています。これが試験が易しくなれば受験者数は増えることは容易に分かります。

では次に、不動産鑑定業に従事する不動産鑑定士は増えるんでしょうか?

受験者数を増やして、有資格者だけを増やしてもあまり意味はありません。資格を取ってもらって、不動産鑑定業に従事する有資格者を増やして意味がうまれます。

不動産鑑定士報酬がどんどん減少する昨今。仕事が減少する中で、不動産鑑定業に従事する不動産鑑定士は増えるんでしょうか?不動産鑑定士資格を持っているという箔を有して、一般企業や官公庁に勤めた方が給料的には期待できます。

ただ、鑑定業に従事しない有資格者が増えるだけのような気がします。

鑑定士を取り巻く業界の流れ

連合会や不動産鑑定士政治連盟などの働きにより不動産鑑定業の業務拡充が図られています。

鑑定評価制度についても、空き家の増加問題に対応するため簡便で効率的な評価基準を取り入れる。成長分野であるホテル・ヘルスケア施設や再生可能エネルギー発電施設などの事業用不動産に関しては、土地と動産を一体評価する方法を導入。新たに農地も評価対象に加える。

農地や事業用不動産をもっと鑑定評価の対象にしてもらおう。ということですね。

国への働きの交渉の中で、不動産鑑定士をもっと増やすような政策を連合会もしろとでも言われているんでしょうか?

今後どうなるかは分かりませんが、簡単に分かることは鑑定士が増加して食えない鑑定士も増加するということでしょう。試験を簡単にして大失敗した弁護士さんのような未来が待っているんでしょうか。

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