下水道の整備区域に土地を所有していると、受益者負担金というものが賦課されます。受益者負担金という名前からも分かるとおり、受益者、つまり利益を得ている人に課せられる金額ですが、受益者とは一体誰なんでしょうか?
負担金の支払い期間に土地の売買があった場合には、支払い義務は誰になるんでしょうか?
下水道の受益者負担金は誰が支払うのか?未払い金は新所有者に引き継ぐのか?について説明していきたいと思います。
受益者負担金とは?
国道交通省のホームページに下水道事業の財源として、受益者負担金の説明ページがありました。
一部抜粋しながら、受益者負担金について説明していきます。
なぜ下水道についての負担を市民がしなければならないのか?
下水道は地方自治体の事業で整備されているのがほとんどですが、市民は税金を納めているのでなぜ2重でお金を払わなければいけないのか疑問に思いませんか?
瀬戸市の下水道事業に関する説明が分かりやすかったので引用して説明します。
税金とは別に受益者負担金が必要となる理由
下水道は、道路や公園のように誰もが利用できるものではなく、利用できるのは、下水道が整備された区域内に土地の権利をお持ちの方のみに特定されるため、下水道整備費を税金だけで賄おうとすると、未整備区域の方との間に負担の不公平が生じます。
そのため、下水道整備区域内に土地の権利をお持ちの方から、下水道整備費の一部をご負担いただくことにより、負担の公平を図るものです。
受益者とは誰なのか?
受益者とは、下水道整備に伴う土地の資産価値の増加を「特別の利益」 と考えて受益者負担金を賦課してきていることから、原則として公共下水道により下水を排除できる地域(以下排水区域という) 内の土地の所有者としています。ただし地上権、質権又は使用貸借若しくは賃貸借による権利 (一時使用のために設定されたものを除く)の目的となっている土地については、原則として、それぞれ地上権者、質権者、使用借主又は貸借人が該当するものとしています。
原則、土地の所有者が受益者
尚、地方自治体によっては、条例で農地等の受益が顕在化していない土地には徴収を猶予している場所もあります。このような場合は、農地転用などにより宅地化が具体化してから受益者負担金の支払い義務が生じます。
受益者負担金の金額はいくら?
受益者負担金は平米当たりの単価が定められており、金額が算出される自治体が多いです。平成7年度受益者負担金制度新規採用都市における平均受益者負担金額は 431円/平米となっています。
つまり、200平米の土地を持っていたとすると下の金額になります。
200平米 × 413円/平米 = 82,600円
あくまでも平均で、地方自治体によってかなり異なります。私が住んでいる自治体では倍近くの金額がします。
受益者負担金の金額は、末端管渠整備費相当額などの下水道整備事業費を当負担区域の総地積で除すること等によって求められます。受益者負担金の総額は、「下水道建設のための総事業費の3分の1から5分の1程度が適当である」と国の指導がされており、下水道事業の全部を受益者負担金で賄うということではありません。
受益者負担金の支払方法は?
ほとんどの自治体では、3~5年程度の分割徴収をとっています。それと併用して一括納付報奨制度を設けている自治体もあります。ほとんどの自治体では一括で納付すると1~2割程度金額が安くなったりする制度を設けています。
また、徴収の開始時期は、ほとんどが下水道の供用開始の年度。その1~2年前から納付義務が発生する自治体も珍しくありません。
不動産の売買があった場合は誰が支払うの?
3~5年の分割徴収が通常と書きましたが、分割徴収の最中、まだ負担金の支払いが残っている間に不動産の売買などで土地所有者が変わってしまった場合は誰が支払うことになるんでしょうか?
自治体によって異なりますが、新旧所有者からの届出(「受益者変更申告書」などの名称)があった場合は、買い主である新所有者に受益者負担金の納付義務が移ります。届出がない場合は、旧所有者が支払わなければなりません。
そのため、仲介をした宅建士などが受益者負担金の残金がどうなっているのか、あるとしたら何年・いくら残金があるのかを調査して、重要事項説明時に説明をする必要があります。
受益者負担金の未払いは新所有者に引き継ぐ?
一番の問題が受益者負担金の未払いです。
私は不動産鑑定士なので、税金の不払いで差し押さえられた物件の公売などで不動産を調査する機会が多いのですが、多くの場合で公共下水道受益者負担金の未払いが存在します。
税金を支払わないような人は、受益者負担金もあまり支払っていないケースが多いです。
公売という制度で強制換価されてしまうのですが、受益者負担金の未払い金額は新所有者に引き継ぐんでしょうか?誰が支払わなければいけないんでしょうか?
未払い受益者負担金は誰が支払う?
受益者負担金を誰が支払うかどうかはその地方自治体の条例で定められています。
条例の一例(公共下水道の受益者負担金)
第5条の公告の日後、土地の所有者等の変更があった場合において、当該変更に係る当事者の双方がその旨を市長に届け出たときは、新たに所有者等となった者は、受益者の地位を承継するものとする。この場合いにおいて、第6条第1項の規定により定められた額のうち当該届出の日までに納付すべき時期にいたっているものは、従前の受益者が納付するものとする。
自治体によって対応は様々ですが、ほとんどの自治体では条例は上のようになっており、未払いの受益者負担金については従前の受益者が納付するものとされています。
未払い受益者負担金は、未払いをした旧所有者が支払う
以前、役所で未払いの受益者負担既について調査をしていたときに、役所職員からこんなことを言われました。
この土地は、受益者負担金が未払いだから、新所有者に支払うように言っておいてください。
びっくりしました。もちろん条例にもそんな文言はありません。お願いという形で新所有者に支払ってほしいと伝えることはケースとしてよくあると思いますが、支払い義務が新所有者に移るというのははじめてでした(根拠もありませんでした)。
債務が新所有者に引き継ぐとしている自治体もあるかも知れませんが、根拠がきちんとしているかどうかは確認が必要です(条例などのチェック)。
私が直面したケースでは、担当してくれた窓口職員の知識の欠如でした。懇意にしていた自治体だったので上の人に確認したらそんなことはないとのことでした。
マンションの修繕積立金と管理費の債務は新所有者に当然に引き継ぎます
同じ様な債務の継承としては、マンションの修繕積立金と管理費の債務があります。こちらについては、法律で「滞納した債務は次の所有者に継承される(区分所有法)」と定められており、滞納した債務も当然に新所有者に引き継がれます。
公共下水道とは関連はありませんが、似た債務としての豆知識でした。
まとめ
受益者負担金は結構大きな金額になるので、不動産業者としては正確な調査と、売主・買主さんへの丁寧な説明が求められます。特にインフラ関係については紛争のネタにもなりやすいので、お気を付けください。