不動産の登記を調べているとき、建物が登記されていないことって多々ありますよね。建物が現実に存在するのに建物の登記がないのには色々な理由があります。
では、そもそも建物として登記ができるようになるには、建物がどこまで建築されていれば良いのでしょうか?どのような建物だったら良いのでしょうか?
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建物の登記要件
不動産登記法における建物がどのようなものを指しているかは、不動産登記規則の第111条に書いてあります。
不動産登記規則第111条(建物)
建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない。
この条文を読むと、建物は3つの要件を満たしていることが必要であると分かります。
- 屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し(外気分断性)
- 土地に定着した建造物(定着性)
- その目的とする用途に供し得る状態にある(用途性)
建物として認定されるためには、「定着性」「外気分断性」「用途性」の3つの要件を満たしていることが必要となります。
不動産登記法事務取扱手続準則第77条(建物認定の基準)
建物の「定着性」「外気分断性」「用途性」のそれぞれを説明する前に、不動産登記法事務取扱手続準則第77条に記載されている建物認定の基準を説明したいと思います。
不動産登記法事務取扱手続準則第77条(建物認定の基準)
・建物として取り扱うもの
停車場の乗降場又は荷物積卸場。ただし,上屋を有する部分に限る。
野球場又は競馬場の観覧席。ただし,屋根を有する部分に限る。
ガード下を利用して築造した店舗,倉庫等の建造物
地下停車場,地下駐車場又は地下街の建造物
園芸又は農耕用の温床施設。ただし,半永久的な建造物と認められるものに限る。
・建物として取り扱わないもの
ガスタンク,石油タンク又は給水タンク
機械上に建設した建造物。ただし,地上に基脚を有し,又は支柱を施したものを除く。
浮船を利用したもの。ただし,固定しているものを除く。
アーケード付街路(公衆用道路上に屋根覆いを施した部分)
容易に運搬することができる切符売場又は入場券売場等
3要件の説明に際して、準則第77条の具体例も絡めて説明していきたいと思います。
定着性について
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建物の定着性はそもそも民法が要請するものです。
民法第86条(不動産および動産)1項
土地及びその定着物は、不動産とする。
不動産は、土地とその土地に定着したものを指します。したがって、建物が不動産として登記されるためには、土地に定着していることが必要とされます。物置などの中には、地面に置いてあるだけの物置もありますが、このような物置は建物として登記ができません。つまり動産として扱われます。物置として登記されるためには、コンクリート基礎などの上にボルト等で固定されている必要があります。
しかしながら、定着性とは絶対的に移動が不可能な状態にして土地に固着していなければいけないかというとそうではありません。建物が永続的に利用されることが真の解釈です。昔の住宅は束石に柱を立てて、ボルトなどで固定することなく建築されていたものが多いですが、建物としての永続性が認められれば、置いただけの基礎でも建物として認定される可能性は十分にあります。
逆に、きちんと基礎もしっかりとした建物として建築されていても、展示用のモデルハウスのように、限られた期限が過ぎれば撤去されるもの(工事用の仮設事務所なども該当します)は、建物としての永続性に欠けるので登記が原則できません。
例えば下の豪華客船。建物として登記できそうな気もしますよね。定着性に欠けるため不動産として扱うことができません。土地に定着していないので動産となりますので、不動産登記はできません。
外気分断性について
登記ができる建物は、屋根及び周壁(これに類するものを含む)があり、これによって外気が遮断され、人が滞留するための空間がなければなりません。特に屋根を有しない建造物を生活空間として利用することは考えられないので、屋根を有することは建物の不可欠な要件といえます。
準則第77条では、「停車場の乗降場又は荷物積卸場」と「野球場又は競馬場の観覧席」は建物として登記ができるとありました。ただし、上屋(うわや)や屋根が存在する部分のみに限られます。上屋とは駅や埠頭(ふとう)などで、旅客または貨物を雨露から防ぐために設けた、柱に屋根をかけただけの建物を言います。
このように、周壁については建物の用途・目的によって柔軟な解釈のもと判断がなされています。
ただし、アーケード付き街路は屋根があるものの建物としての取扱いは否定されています。これは次の用途性に欠けるためと考えられます。
用途性について
登記することができる建物というためには、その建造物が、一定の「生活空間」や「人貨の滞留性」を有することが必要です。もう少し具体的に説明すると、外部から遮断されて安心して生活できる、仕事に従事することができる、物を貯蔵することができる空間であることが必要とされます。これを用途性と呼びます。
建物はその用途・目的のための機能を果たして初めて建物と認められます。居宅は床や天井がなければ寝食できる状態にはならないことから建物としては認められません。更には、旅館として登記されるためには、床や天井があるだけでは足りず、その目的とする営業の用に供し得るだけの構造を備えたものでなければ旅館としては登記ができません。反対に、倉庫・物置を目的とした建物であれば、床や天井が無くとも建物として取り扱うことが可能です。
まとめ
解説書によっては、3要件だけでは足らず、「取引性(経済性)」や「構築性」といった要件が記載されているものも存在します。言っていることはほとんど同じですので、「定着性」「外気分断性」「用途性」の3つの要件を理解してもらえれば良いと思います。