不動産鑑定士が不動産実務に役に立つ情報(TIPS)を綴ります

不動産実務TIPS

不動産実務

借地非訟事件とは?手続きや介入権についても解説します。

更新日:



借地非訟事件。聞きなれない言葉ですが、「しゃくちひしょうじけん」と読みます。

借地非訟事件とは?

借地非訟事件とは、借地条件の変更や建物増改築の承諾等について、地主と借地権者の協議が調わない場合、申し立てにより、裁判所が当事者の協議に代わって、借地条件の変更や承諾に代わる許可等の裁判をなす制度です。

借地権非訟事件は、紛争の未然防止と当事者間の利害の調整、さらには土地の合理的利用の促進を目的としています。

借地非訟事件の対象となる契約

借地非訟事件は、借地契約のうち旧借地法及び借地借家法に定められた借地権を取り扱うものです。したがって、建物の所有を目的とする土地賃貸借契約又は地上権設定契約が対象となります。

スポンサーリンク

借地非訟事件の種類

借地非訟事件の種類は次の6つです。

借地非訟事件の種類

  1. 借地条件の変更
  2. 増改築の許可
  3. 借地契約更新後の建物再築許可
  4. 土地の賃借権譲渡又は転売の許可
  5. 建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可
  6. 建物及び土地賃借権譲受の許可

それぞれについて解説していきたいと思います。

1.借地条件の変更

建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化、その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいては、その借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申し立てにより、その借地条件を変更することができる。

借地借家法17条1項

2.増改築の許可

増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときには、裁判所は、借地権者の申し立てにより、その増改築について借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。

借地借家法17条2項

 3.借地契約更新後の建物再築可

契約の更新後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申し入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる

借地借家法18条1項前段

 4.土地の賃借権譲渡又は転売の許可

借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる

借地借家法19条1項前段

スポンサーリンク

5.建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可

第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる

借地借家法20条1項前段

6.建物及び土地賃借権譲受の許可

土地の賃借権譲渡又は転売の許可(借地借家法19条1項前段)、建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可(借地借家法20条1項前段)があった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申し立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる

借地借家法19条3項、20条2項

スポンサーリンク

介入権とは?

借地権非訟事件のうち、「土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件」と「競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件」に関しては、土地所有者が自ら土地の賃借権を借地上の建物と一緒に優先的に買い取る権利が与えられています。

この権利を介入権といいます。

介入権は、借地権の買い取りについて、地主が最優先に買取の権利を有する制度です。地主の権利という点はポイントです。

介入権行使の具体例

介入権が実際行使される典型的な例は、「借地権の評価額が、地主が考えていた価額よりも低い場合」です。

借地権売却や競売手続きにおいて、第三者に借地権売却を承諾するぐらいならば、自分が買い取ってしまいたいと考えるケースがあります。

特に、地主が思っていた金額よりも借地権の評価額が安かった場合は当然そのように考えますよね。借地関係を解消でき、完全な所有権を取得することができます。

借地権の評価額が低い場合、借地権の譲渡承諾料も連動して安くなることになります。借地権が第三者に売却されるときの地主のメリットは譲渡承諾料になりますので、譲渡承諾料が安くなるのならば(加えて借地権を買い取る価格が安いならば)、自分で借地権を買い取りたいというインセンティブが働くことになります。

これを認めるのが介入権です。

スポンサーリンク

借地非訟事件の手続

東京地方裁判所民事第22部を例に、借地非訟事件の手続きの概略を説明します。

借地非訟事件の手続

  1. 借地権者(申立人)が、民事第22部に申立書を提出する。
  2. 裁判所が、第1回審問期日を定めるとともに申立書を土地所有者(相手方)に郵送する。
  3. 裁判所は、第1回審問期日を開き,当事者(申立人及び相手方)から陳述を聴く(必要に応じて第2回,第3回と期日を重ねる。)。
  4. 裁判所が、鑑定委員会に、許可の可否、承諾料額、賃料額、建物及び借地権価格等について意見を求める。
  5. 鑑定委員会が、現地の状況を調査する(当事者も立ち会う。)。
  6. 鑑定委員会が、裁判所に意見書を提出し、裁判所は意見書を当事者に送付する。
  7. 裁判所が、鑑定委員会の意見について、当事者から意見を聴くための最終審問期日を開き、審理を終了する。
  8. 裁判所が、決定書を作成し,当事者に送付する

借地非訟事件の手続きは、おおむね1年以内、約7~9か月程度が申し立てから決定までの期間の目安となります。




PICK UP記事と広告



-不動産実務

Copyright© 不動産実務TIPS , 2024 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.