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お寺(寺院)の借地。適正な地代と公租公課の関係は?

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定期借地権付きマンションも一般的となってきましたね。

定期借地権付きマンションの普及にともない、寺院の一部に借地権を設定してマンションを建てるという計画も何件か見るようになりました。

有名な例では、京都市左京区の下鴨神社が敷地の一部に定期借地権を設定して分譲マンションを2015年に開発、現在発売中です。

参考 SUUMO|J.GRAN THE HONOR 下鴨糺の杜

所有権ではなく、土地が定期借地権なのが特徴ですが、定期借地権付き分譲マンションは所有権に比べて次のメリットがあると言われています。

  • 所有権マンションよりも、2~3割程度分譲価格が安い
  • 価格の安さから、面積が広いマンションが多い

広さに関しては、平均面積は所有権に比べると10平米(6帖間程度)広く、平均価格は地代負担込みでも3~10%程度安いという調査結果もでています。広くなって、更には支払額も安くなっているのはかなりのメリットですね。

では、お寺の地代はどれぐらいの水準なんでしょうか?地代と公租公課の関係はどれぐらいなんでしょうか。

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下鴨神社の地代水準

不動産マーケット情報の記事「【開発】下鴨神社に定借マンション、竹中の設計施工で」によると、借地料は年間8000万円、マンションの計画地は下鴨神社の全敷地12万平米のうち、南端の9,647平米です。

地代(単価):8,293円/平米( 27,400円/坪 )

周辺の価格を調べると、住宅で坪120万円程度のようです(平成29年の公的価格)。

ざっくりと土地価格と地代の割合(利回り)を計算すると、2.28%となりました。

利回り 2.28% = 27400円/坪 ÷ 坪120万円

お寺の地代は公租公課の3倍以内が多い

寺社(寺院・神社)の地代は公租公課の3倍以内で定められていることが多いです。

これにはきちんとした理由があって、宗教法人(公益法人)が土地を貸す場合、公租公課の3倍以下だと地代に収益性がないと判断され非課税になるからです。

収益事業(販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいう。)に該当しないものとして、不動産貸付業のうち次に掲げるものが例示されています(法人税施行令第5条1項5号)

  • イ 特定法人が行う不動産貸付業
  • ニ 宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)第四条第二項(法人格)に規定する宗教法人又は公益社団法人若しくは公益財団法人が行う墳墓地の貸付業
  • ホ 国又は地方公共団体に対し直接貸し付けられる不動産の貸付業
  • ヘ 主として住宅の用に供される土地の貸付業(イからハまで及びホに掲げる不動産貸付業を除く。)で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件を満たすもの

「主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の財務省令で定める要件を満たすもの」をもう少し詳しくみていきましょう。

「住宅の用に供される土地」の判断基準は下の基準に照らして判断されます(法人税基本通達15-1-20)

  • 当該貸付地の上にある建物の床面積の2分の1以上が居住の用(賃貸住宅の用を含み、別荘の用を除く)に供されていること
  • 当該貸付地の面積が当該貸付地の上にある建物の床面積の10倍以下であること

「対価の額が低廉であること」は、法人税法施行規則4条に規定されています。

法人税法施行規則4条(住宅用土地の貸付業で収益事業に該当しないものの要件)

令第五条第一項第五号ヘ(不動産貸付業)に規定する財務省令で定める要件は、同号ヘに規定する貸付業の貸付けの対価の額のうち、当該事業年度の貸付期間に係る収入金額の合計額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税額及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額以下であることとする。

簡単にまとめてしまいますと、居住用(賃貸・分譲)の建物目的の借地で、借地料(地代)が公租公課(固定資産税+都市計画税)の3倍以内なら非課税となります。

非課税となる要件

  • 居住用(賃貸・分譲)の建物目的の借地
  • 借地料(地代)が公租公課(固定資産税+都市計画税)の3倍以内

逆にいえば、収益事業ではなく、非収益事業として非課税にしたいというインセンティブが働き、地代は3倍以内に設定されることが多い。ということですね。

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地代は3倍以内は利回りだと何%になるか?

公租公課の3倍以内の地代は、土地価格に対しては何パーセント程度になるんでしょうか。計算してみたいと思います。

前提として固定資産税評価額の水準は時価の7割水準、住宅特例が適用になるものとし、税率は京都市の税率を採用しています。

公租公課は更地価格の0.233%程度

  • 固定資産税:更地価格 × 70% × 1/6 × 1.4% 
  • 都市計画税:更地価格 × 70% × 1/3 × 0.3%

つまり更地価格の0.699%(公租公課 0.233%の3倍)の範囲内であれば、地代は非課税となります。

ん?利回り低すぎますね。これは計算を間違えてしまったのか...

試しに、住宅特例(1/6 と 1/3)を無いものとして再計算してみます。

公租公課は更地価格の1.19%程度

  • 固定資産税:更地価格 × 70% × 1.4% 
  • 都市計画税:更地価格 × 70% × 0.3%

利回り(地代 ÷ 更地価格)は3.57%(公租公課 1.19%の3倍)となります。

下鴨神社の例では、利回りは2.28%でしたので、3.57%以内で非課税の対象となりそうです。

メモ

0.699%なのか、3.57%なのかで結論が全く異なってきますね。どちらが正しいのかは不勉強のため分かりません。条文だけを読み解けば、住宅特例なども反映させた税額の3倍以内だと思うんですが、住宅特例を反映させるとほとんどの貸地は非収益事業には見做されないですね。定期借地権マンションの地代利回りは2%弱だという調査結果もあります。

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宗教法人の収益事業について

宗教法人の事業が、収益事業になるのか、非収益事業になるのかの判断は、読めば読むほど面白いですね。例えば、宗教法人が営むペット葬祭業は収益事業でしょうか?非収益事業でしょうか?

ペット葬祭業は収益事業!

答えはペット葬祭業でした。宗教法人以外でもペット葬祭業を行っており、宗教法人以外の法人の事業との競合可能性が問題となったようです。競争条件を平等化すべき(イコール・フィッティング論)を基礎として、非課税とする根拠もないことから収益事業として課税対象となるようです(最判平成20年9月12日|集民228号617頁)。

また、宗教法人の土地の貸付も、非収益事業は居住用のものに限られているので、駐車場としての土地の貸付の場合はもちろん収益事業に該当し、課税対象となるのも注意が必要ですね。

参考 国税不服審判所|公益法人等の収益事業の範囲




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