不動産鑑定士という仕事は、他社の不動産鑑定士と共同で同じ仕事をすることがよくあります。色々な方々と会議をすることも多く、年齢もばらばらです。私はまだ40代ですが、60代や70代の鑑定士も多くいます。
私の地域では若手が増えてきており会議構成員の若返りが顕著になってきました。会議の内容も変化してきており、一番の変化は統計資料の分析が盛んになってきたことです。今まではお年寄りの鑑定士がメインだったので、数字を扱う仕事をしておきながら感覚だけで判断を下すことが多かったんですね。良いことだと思います。
しかーし
おじいさん鑑定士と世間話をしていたところ、「若い人は統計資料を色々出してくるけど、それを使う能力が無い。数字を読み取る力が無い。」とおっしゃっていました。
正直なところ「は?」と思って少しいらっとしてしまったんですが、確かに数字は単なる数字なだけであって、数字を読み取るには能力が必要になります。今流行りの言葉で言うならば、「統計リテラシー」といったものでしょうか。
少し前には「統計学が最強の学問である」といった書籍が大流行りしましたね。ある程度の間隔を置いて数年に一度統計ブームがきます。
今日は不動産のこととは関係ないんですが、閑話休題ということで数字に簡単に騙される一例を紹介したいと思います。
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98%の確率で正しいガン検査、本当のガンの確率は?
次の設例を前提とします。
98%の確率で正しい結果のであるガン検査があります。Aさんはガン検査の結果、陽性。つまりガンだと診断されました。
Aさんが本当にガンである確率は何パーセントでしょうか?
尚、ガンになる確率は0.5%とします。
直感で判断した答え
このように問題にしてしまうと、すぐに分かる答えは正しくないんじゃないかという推測が働いてしまうんですが、ほとんどの方が”98%”と答えます。
クイズ形式にせず、「ガンである確率が98%」がまるで当たり前のように話すと、ほとんどの人が「それって98%ではないんじゃない?」と突っ込みません。「あー、98%の検査だからがんの確率も98%だろうなー」と漠然と鵜呑みにしてしまいます。
統計的に考える
では、本当にそうなんでしょうか?実際考えてみましょう。
パーセントで考えると人は分かりづらいものです。ですので、想像しやすい数字を使って、10000人の人がガン検査をしたものとして話を進めます。
ガンになる確率は0.5%なので、10000人いるとガン患者は50人です。
ガン患者は50人
この50人というのは実際のガン患者の人数です。ガンと診断された人の人数は全く別になります。
ガン検査の確からしさ、正確性は98%でした。
ガン患者が50人、ガン患者ではない人が残りの9950人います。98%の確率で正しいということは裏を返せば2%の確率で間違えるということです。
ガン患者50人のうち、2人(50人×2%)はガンなのにガンではないと診断されます。
ガン患者でない9950人のうち、199人(9950人×2%)はガンではないのにガンと診断されます。
つまり、10000人がガン診断をすると、247人がガンと診断されてしまうのです。本当のがん患者は50人なのに、4.94倍(ほぼ5倍)のガン患者(と診断された人)が誕生してしまうのです。
98%の確率のガン診断では247人ですが、99%の確率のガン診断でも149人の人がガンだと診断されてしまいます。
Aさんがガンである確率は?
では、Aさんがガンである確率を求めましょう。式は次のとおり
(陽性反応が出たガン患者の人数)÷(ガンと診断された人数)
48人÷(48人+199人)=19.4%
ガンである確率は19.4%。98%と比べると驚くほど小さい数字ですね。人間の感覚というものがいかに役に立たないかが明確に分かったかと思います。
数字に騙されないようにするには
数字に騙されないようにするにはどうしたら良いでしょうか。学生時代に数学が得意で、大学も良いところに行ったから大丈夫!なんて思ってないでしょうか?
会議では高学歴な方々と一緒に議論をすることも多いですが、意外と数字の扱いは貧相だったりします。大学受験時の得意不得意と、会議での統計リテラシーは必ずしも一致しません。
やはり大人になってからも定期的に統計学の読み物に触れておくことが必要なんだと思います。
私も今でもたまに読む統計の名著としてはブルーバックスで出版されているダレルハフの「統計でウソをつく法」があります。この本は日常にあるおかしな数字とその解釈が紹介されておりとても面白いです。騙されやすいグラフなどの紹介もあります。
手元にあって紹介できる本としては下のものがあります。
株価や地価の変動率の平均を計算するときがあると思います。このときの変動率の計算方法も意外と間違えがちです。日々地価変動率に触れている不動産鑑定士であっても、複数期間にわたる変動率の平均は計算が間違っていたりします。
参考 平均変動率の計算の仕方、間違ってない?平均の計算法をおさらいしてみます。
統計マインドを鍛えるために
統計データはあくまで数字です。
その数字からどのように考えるのか、どのような結論を導くか、これは統計データを見た人が求めるものです。
統計マインドとは、今回紹介した設例のような一見簡単そうに見える数字のからくりをきちんと道筋をたてて考えるスキルです。
統計マインドを鍛えたい!という方向けには、「統計マインドを鍛える本5冊。読み物としてもおススメ!」という記事も書いていますので、こちらも参考にしてみてください
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