2016年に改定された土地価格比準表(七次改訂)の記事です。
土地価格比準表は昭和50年1月20日付け国土庁土地局地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評価等について」にその位置付けが記載されています。土地価格比準表は、国土利用計画法の適切な施行のため、地価公示標準地等からの統一的、合理的な比準(要因比較)方式の確立を目指して作成されたものです。
現在は損失補償の際の土地評価で使われる機会の方が多いんじゃないでしょうか。国土交通省損失補償取扱要領別記1「土地評価事務処理要領」などにも位置付けが記載されていますね。
前回の六次改訂までは数年ごとに要因格差等が見直されていましたが、今回(七次改訂)は22年ぶりの改正となります。その間には不動産鑑定評価基準の改正や自然災害の発生など大きな出来事がありました。
7次改訂への見直しには、平成25年から平成27年度にかけて外部検討方式により全国的な鑑定機関や農業委員会、森林組合へのヒアリングを経て改正がなされたときいていますが、その改正内容を簡単にまとめてみたいと思います。
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土地価格比準表
地域実態と合わない場合がある旨を明記
比準表は不動産鑑定士等の専門家ではない用地担当者(公務員)が使用することを念頭において作成されています。地域の実態などよりも画一性や事務処理の統一性に重きが置かれているので、記載された格差率は全国一律であり、地域の実態とかい離していることが多々ありました。したがって、今回の比準表では格差率が「地域の実態と合わない場合があるので留意すること」との注意書きが明記されました。
今までも地域の実態と合わない場合は不動産鑑定士の意見等により地域実態に応じた格差率を用いて比準をしていましたが、この取り扱いは変わりません。
地域要因
住宅地「最寄駅への接近性」「最寄駅から都心への接近性」「各地の標準的面積」「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等の災害発生の危険性」
商業地「歩道」「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等」
工業地「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等」
宅地見込地「最寄駅への接近性」「最寄駅から都心への接近性」「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等」
全地域に「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等」が入っていますね。地域性が強い要因ですし、自然災害の発生により格差率は一律ではありません。災害意識の高まりによっても格差率は異なってくるんでしょうね。
個別的要因
住宅地「最寄駅への接近性」「袋地」「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等の災害発生の危険性」
各地域の格差率の見直し
22年の時代の変化によりモータリゼーションが進むなど、色々と行動様式も変化しました。そのため土地に対する検討項目も変わり、結果要因格差率が多々見直されています。
どのように格差率が見直されたのかを簡単にまとめてみます。
住宅地域
街路条件(地域・個別)の「幅員」が格差率拡大
交通接近条件(地域・個別)の「最寄駅への接近性」が格差率縮小
画地条件(個別)の各要因について格差率拡大
自動車社会がさらに進むことにより前面道路の幅員は更に重要な要因となっています。反対に駅の利用は減少し、要因としてはウェイトが小さくなりました。地域でこの地域は坪いくら。といった値付けがなされる時代が終わり、実際の土地がどのような個別的な要因を有しているかが重要しされるようになっています。具体的にいうと、いくら良い地域にあっても形状が悪かったり道路との接面状況が劣ったりする土地はかなり安くしないと売れないようになってきています。
また、不動産鑑定評価基準の改正に合わせ、商店街という名称が「商業施設」に変わりました。
商業地域
画地条件(個別)の各要因について格差率拡大
街路条件(地域・個別)の「歩道」の判断要素にバリアフリーが追加
環境条件(地域)に「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等の災害発生の危険性」が新設
画地条件の格差率が拡大したのは住宅地と同じような時代背景によります。歩道の格差率判定にバリアフリーの判断要素が付け加えられたのも高齢化社会をむかえている日本にとっては大事な要因項目ですね。
昨今の地震、土砂崩れ等の自然災害は住宅地のみならず商業地にも影響を及ぼします。土地需要の減少がみられるので要因項目が新設されました。
工業地域
交通接近条件(地域)の各要因について格差率拡大
環境条件(地域)に「洪水、地すべり、高潮、崖くずれ等の災害発生の危険性」が新設
交通接近条件は概ね格差率が減少している地域が多いですが、工業地域については格差率が拡大しました。これは物流の果たす役割が22年に比べて大きくなってきていることに起因します。
宅地見込地地域
交通接近条件(地域)の各要因について格差率縮小
画地条件(個別)の各要因について格差率拡大
格差率の変化については住宅地などの宅地地域の理由とほぼ同じですね。鉄道通勤者の減少、駅前商業施設(商店街等)の衰退により駅への依存度が低下傾向にあることに起因します。
林地地域
交通接近条件(地域・個別)の「最寄駅への接近性」について格差率縮小
交通接近条件(地域)の「労働力確保」については削除
交通接近条件の「林道等の配置、構造等の状態、最寄市場への接近性(地域)」「搬出拠点までの距離、搬出地点から最寄市場までの距離(個別)」については格差率拡大
自然的条件(地域・個別)の「斜面の型」については格差率拡大
宅地化条件(地域・個別)の「宅地化の影響」については格差率縮小
自然的条件(地域)に「災害の危険性」が新設
最寄駅への依存度は宅地に限らず林地でも同じように低下しています。林業本場林地地域と山村奥地林地地域については林業経営についての要因項目をきちんとみましょうということで、斜面の型の格差率が拡大。林業経営とはあまり関係のない「宅地化の影響」は格差率が縮小しました。
鹿や猿などの獣害が林業経営に及ぼす影響が大きいことから「災害の危険性」として「獣害の危険性」を判定し盛り込むこととなりました。
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農地地域
まず、前改訂(六次改訂)でも扱いが問題となっていた果樹園ですが、従来と扱いは変わらず果樹園としての比準表の追加はありません。畑の比準表を適用して比準することとなりました。
交通接近条件(地域・個別)の「集落との接近性」について格差率縮小
自然的条件(地域・個別)の「災害の危険性」について格差率拡大
画地条件(個別)の「地積」「形状」について格差率拡大
画地条件(地域・個別)に「管理の程度」が新設
宅地化条件(地域)に「宅地化等の影響の程度」が新設
集落との接近性については車社会がより深化したことにより要因としてのウェイトが小さくなりました。
災害の危険性については上の林地地域と同じく「獣害の危険性」が農業経営に及ぼす影響が大きいことから格差率が拡大しました。画地条件については、大規模農家の誕生、機械化・農地の大規模化が進んでいることにより過小な農地では採算性が合わなくなってきていること等により格差率は拡大されています。
新設された項目が2つあります。「管理の程度」と「宅地化等の影響の程度」ですね。農業従事者の減少、担い手が少なくなってきていることから耕作放棄地が増大しています。草等が繁茂し管理の程度が悪い農地は復旧に費用がかかりますね。
また、現況農地であり最有効使用も農地としての耕作される土地だとしても、周辺地域の宅地化・観光地化は地価に影響を与えます。特に都心近郊などではその傾向も顕著ですので、そのような背景をもとに要因が新設されています。
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まとめ
要因格差率の変化をみてみると、モータリゼーションが進んで駅への依存度が低下していることが分かります。不動産の個別化もすすんでおり、以前であればこの地域は坪いくらで土地の値段が決まっていたものが、実際の使い勝手はどうか、総額は需要者の手に届きやすい価格帯なのか等の個別性が重要な要因となってきています。
後は、自然災害への意識の高まりでしょうか。土砂災害防止法(土砂災害警戒区域)などの要因項目は具体的には追加されませんでしたが、需要者が気にしている要因であることには変わりはありません。