宅地見込地は不動産鑑定評価での特有の用語です。
不動産鑑定士に対する懲戒処分では、宅地見込地の案件に関わるものが多くありますが、それだけ宅地見込地の鑑定評価は難易度が高いといえるでしょう。
宅地見込地の定義
宅地見込地は、土地の種別の一つです。
不動産鑑定評価基準には、次のように書かれています。
見込地とは、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種ベルの地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地をいい、宅地見込地、農地見込地等に分けられる。
宅地見込地の鑑定評価
宅地見込地の鑑定評価はどのように行うのでしょうか。不動産鑑定評価基準の各論には次のように記されています。
宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格及び当該宅地見込地について、価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適切に修正して得た価格を関連づけて決定するものとする。この場合においては、特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び次に掲げる事項を総合的に勘案する。
- 当該宅地見込地の宅地化を助長し、又は阻害している行政上の措置又は規制
- 付近における公共施設及び公益的施設の整備の動向
- 付近における住宅、店舗、工場等の建設の動向
- 造成の難易及びその必要の程度
- 造成後における宅地としての有効利用度
つまり、宅地見込地は取引事例比較法と控除法の2手法を用いて鑑定評価を行います。
- 取引事例比較法(比準価格)
- 控除法(控除後価格)
宅地見込地の鑑定評価が行われる場面
もちろん民間依頼の鑑定評価でも宅地見込地の鑑定評価は行われます。
しかし、最も多いのは道路用地の買収などの損失補償の場面での鑑定評価。また課税目的での鑑定評価です。
参考 国税庁|宅地見込地の評価
地価公示での宅地見込地
取引の指標として活用される地価公示価格ですが、この地価公示の中でも宅地見込地の地点が存在します。
全地点数 | 宅地見込地 | 割合 |
26,000 | 74 | 0.28% |
宅地見込地、宅地、農地の価格バランス
現況が農地(田畑)であるものの、将来的には宅地化が期待され、宅地見込地と判断された場合、価格(単価)のバランスはどのようになっているのでしょうか。
一般的には宅地が最も高く、宅地見込地、農地(田畑)へと安くなります。
宅地見込地、宅地、農地の価格バランス
宅地 > 宅地見込地 > 農地
宅地見込地は宅地の〇%ぐらい、という目安はなく、それぞれの宅地見込地で価格の割合は異なります。
たまに自治体担当者と話していて、「宅地見込地は宅地の6割水準なので〇〇円ぐらいでしょうか」と話しだす人もいますが、それは鑑定評価をしてみないと分かりません。
畑のように造成費があまりいらない農地と田んぼのように土盛りや擁壁などの費用が大きくなる農地では、宅地にするための費用が大きくことなります。
また大きい農地であれば、道路や公園などの公共公益施設のための土地が必要になります。道路の位置・距離は土地の形によっても変わってくるので、やはり一概に宅地見込地は宅地の〇%とはいえません。
宅地見込地の判断基準
宅地見込地は、現況は農地(田畑)であるが、将来的には宅地となるのが妥当と判断される土地です。
田舎へ行くと田んぼを潰して住宅分譲をしているような土地がありますね。このような土地が宅地見込地です。
自治体からの依頼で「宅地見込地で評価をお願いします。」というものがたまにあります。このような依頼があったとき、宅地見込地として評価をできるかを検討しないうちには鑑定評価依頼を受託することはできません。
つまり、宅地見込地として評価ができるかどうかは、不動産鑑定士が判断することでえあり、自治体担当者が決めることではないのです。
では、具体的にどのような事項をもとに、宅地見込地としての判断をするのでしょうか。
土地評価事務処理細則には、「宅地見込地地域の判定指標」として10の指標が掲げられています。
要領第3条第4号のイの宅地見込地地域の判定に当たっては、次の各号に掲げる事項を総合的に考量するものとする。
- 母都市の人口、世帯数及び住宅建設の動向
- 母都市への企業の進出の状況
- 周辺の宅地開発地の分布状況及び開発後の宅地の利用状況
- 母都市の都心までの距離
- 最寄鉄道駅までの距離
- 幹線道路までの距離
- 小学校及び中学校までの距離
- 地勢、地盤等の状況
- 開発行為の許可の可能性及び採算性
- その他開発に伴い必要となる事項
なぜ宅地見込地の鑑定で懲戒処分が多いのか
用地買収において自治体担当者(用地担当)が一番困るのは、事業地の買収ができないときです。
そのため、一般的には土地は買いやすいように、土地単価が高く設定されることが購入しなければいけない用地担当者にとってはありがたいことです。
自治体担当者に買収単価の決定(評価)させると、一般的な市場価格よりも高い価格で評価されがちです。そのため、第三者の役割として不動産鑑定士の鑑定評価が用いられます。
宅地見込地と農地の価格バランスで述べたように、農地の価格は宅地見込地よりも低額になります。自治体担当者としては、宅地になる可能性があるかどうかを検討せずに、より高い宅地見込地で評価することを求めることになります(そのようなインセンティブが働きやすいということです)。
不動産鑑定士は、上記の判定指標などにより宅地見込地とし得るかを判断しますが、その判断が甘いと、宅地化が現実的でないのにもかかわらず宅地見込地として評価をすることになります。
そして後々「本当に宅地見込地で良いの?」「依頼者に寄った評価をしていない?」と突っ込まれるのですね。
このようなことがないように、連合会では厳格に懲戒処分を行いますし、依頼者によるプレッシャーがあったのかどうかのアンケートを不動産鑑定士に行っているのです。
今は減ってきたんですが、農地の評価は全て「宅地見込地」と考える用地担当者がまだいます。用地担当者の教育も必要ですね。
さて、不動産鑑定士の中でも宅地見込地の鑑定評価を一度もしたことがない人はたくさんいます。
実務書も少ないのですが、日本不動産鑑定士協会の「不動産鑑定実務論」が評価例も記載されていて一番参考になると思います。古い本なのですが、楽天などで調べると新刊が残っていたりします。
手元に一冊おいてあると便利なので、在庫があるうちにお買い求めください。