地代の設定方法の一つに公租公課倍率法というものがあります。
- 公租公課倍率法とはどのような手法なのでしょうか?
- 地代の水準は公租公課の何倍程度が適正なのでしょうか?
- 不動産鑑定評価基準では公租公課倍率法はどのように扱われているのでしょうか?
- 地代・家賃の増額請求に参考となる書籍は?
これらの疑問にこの記事でお答えしたいと思います。
公租公課倍率法とは
公租公課倍率法は地代の水準と公租公課の間には相関関係があるという考えのもと、地代を公租公課の何倍として査定する方法です。
地代の評価方法・査定方法の一つですが、理論的というよりは、公租公課が分かれば簡単に計算できることから、実務上よく用いられる手法です
公租公課倍率法の計算式
公租公課倍率法では、公租公課に倍率を乗じて地代を計算します。
公租公課とは?
公租公課倍率法を用いる際の公租公課とは、「固定資産税」と「都市計画税」を指します。両者をあわせて「固都税」ともいいます。
固都税は課税標準額(円)に税率を乗ずることによって計算されます。
東京都23区内であれば、固定資産税が1.4%、都市計画税が0.3%なので、合わせて1.7%の固都税が課されます。
具体的に公租公課の額を調べるためには、所有者に課税明細書などの課税資料を出してもらって確認します。
公租公課倍率法の倍率は?
公租公課倍率法の倍率は何倍を用いれば良いのでしょうか。
実務者の慣行として3倍ぐらいが適正というものがありますが、何か適切な裏付けがあるかというとそうでもありません。
判例やその他資料で公租公課倍率法の倍率がどの程度が適正なのかを探ってみましょう。
判例(東京高裁S59.6.20)での公租公課倍率法
本判例(判例タイムズ535号 P209)では、公租公課の約3倍を相当地代としています。
一部引用してみましょう
本件土地の近隣には訴外月窓寺、同蓮乗寺、同光専寺の所有する借地が多く存在するところ、右借地の地代は当該土地に対する固定資産税及び都市計画税(以下公租公課という)を基準として決定されるのが一般的で、おおむね2倍もないし3倍(商業地は3倍程度)とされている。(以下略)
日税不動産鑑定士会の公表する倍率
税理士と不動産鑑定士のダブルライセンスを有した者の団体に日税不動産鑑定士会があります。
日税不動産鑑定士会では継続的(3年ごと)に、「継続地代の実態調べ」を刊行していますが、この資料の中には公租公課倍率法の倍率についての分析もなされています。
調査時点 | 商業地系 | 住宅地系 |
平成24年1月1日 | 3.81倍 | 4.25倍 |
平成27年1月1日 | 4.05倍 | 4.35倍 |
このデータは東京都23区内の地代について分析されたものです。
また、商業地系といえども、店舗併用住宅の事例も含まれていることから、小規模住宅用地の特例で固定資産税が安くなっている場合もあります。そのため、固都税に対する地代の倍率が、市場よりもやや高くなっている可能性もあります。
この倍率は上限。という意味合いで見ても良いかもしれませんね。
引用 日税不動産鑑定士会|平成27年度版 継続地代の実態調べ
- 地代の水準(平均地代月額)
- 地価に対する地代(支払賃料)の割合(活用利子率)
- 地代の変動状況
- 地代の公租公課に対する倍率
田原拓治さんの分析した倍率
裁判鑑定で有名な不動産鑑定士に田原拓治さんがいます。
鑑定コラムという不動産鑑定実務に関するコラムを書かれていることから、不動産鑑定士でも知る人が多い先生です。
特に家賃や地代に強く、賃料評価の実務書を数冊書かれています。
その中で、公租公課倍率法についても詳しく、分析・説明がなされています(改定増補・賃料[地代・家賃]評価の実際 P549~P559)。
詳しい内容は実際に書籍で確認していただくものとして、その中で公租公課倍率法の地代倍率(住宅)は、2.0倍~2.6倍との分析があります。
ただ、この倍率には注意書きがあり、固都税には商業地の税額データも含まれるため、実際の住宅地のデータよりは倍率が低めに出る可能性があるとされています。
この倍率は、地代倍率の最低倍率という意味合いが強い
で、実際倍率は何倍が適正なの?
判例や日税不動産鑑定士会、書籍でのデータからすると、冒頭で述べた3倍程度というのがそれなりに確からしい数字だということが分かると思います。
しかし、この倍率はあくまで東京基準のものです。
地域の取引慣行によっても倍率は異なってくるでしょうし、地代の水準によっても倍率は異なってきます。
一般的には地代水準が安い方が倍率は高い
実務においては3倍を標準としつつ、適宜補正して判断をすることになります。
不動産鑑定基準の中での公租公課倍率法
不動産鑑定基準では、継続賃料の評価手法は4手法が具体的に列挙されています。
- 差額配分法
- 利回り法
- スライド法
- 賃貸事例比較法
つまり、公租公課倍率法は不動産鑑定評価基準で認められた正式な鑑定評価手法ではありません。
しかし、不動産鑑定評価基準を確認してみると、
不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。
と、等と書かれており、4手法以外の手法の存在が示唆されています。
これがまさしく、公租公課倍率法であると考えられます。
つまり公租公課倍率法は、不動産鑑定評価基準に認められた正式な手法ではないものの、この4手法を検証する手法として非常に重要な位置づけにある手法です。
公租公課倍率法を学ぶために
公租公課倍率法を正確に学べる書籍は少ないですが、先にあげた田原拓治さんの賃料評価の書籍は必見です。
地代・家賃の評価手法を具体的な数字を使って説明した数少ない実務書の一つです。
金額は高めですが、専門書籍はなくなると再版されず入手困難となる場合が多いです。気になったときに買い求めることをおすすめします。
田原拓治さんのホームページ(鑑定コラム)でも、公租公課倍率法に関する記事があります。
また、寺院の地代は特殊な側面があり、一般の地代水準よりも安く(倍率が低く)なる傾向があります。
詳しくは、別記事「お寺(寺院)の借地。適正な地代と公租公課の関係は?」の中の”お寺の地代は公租公課の3倍以内が多い”で説明しています。是非読んでください。
地代・家賃の増減額請求に参考となる書籍は?
私は不動産鑑定士という、地代や家賃を査定(鑑定評価)する仕事をしています。
地代・家賃の紛争では、弁護士さんと打ち合わせをする機会も多いのですが、不動産のことを知っているだけでは話がかみ合わないことが多々あります。
逆に、不動産法についてはあまり得意でない弁護士さんとの打ち合わせですと、もうちょっと勉強してきてほしいな。と思うこともあります。
そこで、私がこれまで参考としてきた地代・家賃の増減額請求に関する書籍を紹介しておきたいと思います。