私の仕事は不動産鑑定士です。
といっても、周りの大多数の人々は不動産鑑定士という仕事を知りませんし、妻ですらどのような仕事をしているのか多分分かっていません。
親戚には私の職業は不動産屋だと思っている人も多いです
このマイナーな職業「不動産鑑定士」。では、不動産鑑定士とはどのような仕事なんでしょうか?
この記事では不動産鑑定士が何をする仕事なんか、そして収入はいかほどなのかを解説します。
不動産鑑定士とは?
不動産鑑定士とは名前のとおり、不動産の鑑定評価をする。つまり、不動産の値段を付ける仕事です。
不動産鑑定士の仕事は、全て「不動産の鑑定評価に関する法律」に規定されています。さきほどの鑑定評価もこの法律に定義されています。
不動産の鑑定評価に関する法律 第2条(定義)
この法律において、「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。
不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士の独占業務とされています。
不動産の鑑定評価に関する法律 第36条(不動産鑑定士でない者等による鑑定評価の禁止)
- 不動産鑑定士でない者は、不動産鑑定業者の業務に関し、不動産の鑑定評価を行つてはならない。
- 不動産鑑定業者は、その業務に関し、不動産鑑定士でない者に不動産の鑑定評価を、第四十条第一項又は第二項の規定による禁止の処分を受けた者に鑑定評価等業務を行わせてはならない。
独占業務に関しては、別の記事「不動産鑑定業務に抵触しない価格査定って何?」が詳しいです。
不動産業者の価格査定と鑑定評価についての違いについても触れていますので、是非お読みください。
不動産鑑定評価書とは?
不動産鑑定士の成果物は不動産鑑定評価書です。
周辺業務と言って、コンサル業務やその他の鑑定評価ではない業務もありますが、基本的には不動産鑑定評価書を依頼者に発行し、その報酬を得ることで不動産鑑定士はご飯を食べています。
下の画像は、不動産鑑定評価書の一番大事な部分「鑑定評価額」が記載されている箇所の抜粋になります(連合会発行の記載例を引用しています。)。
当然のことながら、不動産鑑定評価書には、評価の対象となる不動産の価格が明示されます。これが不動産鑑定評価額です。
法律や不動産鑑定評価基準によって不動産鑑定評価書に記載しなければならない事項が定められており、これを一つでも漏らしてしまうと鑑定評価基準違反となり懲戒の対象にもなってしまいます。
の鑑定評価は、不動産鑑定士の独占業務とされています。
不動産の鑑定評価に関する法律 第39条(鑑定評価書等)
- 不動産鑑定業者は、不動産の鑑定評価の依頼者に、鑑定評価額その他国土交通省令で定める事項を記載した鑑定評価書を交付しなければならない。
- 鑑定評価書には、その不動産の鑑定評価に関与した不動産鑑定士がその資格を表示して署名押印しなければならない。
- 不動産鑑定業者は、国土交通省令で定めるところにより、鑑定評価書の写しその他の書類を保存しなければならない。
鑑定評価書には不動産鑑定士が自署をして署名押印しなければならず、その写しなども一定期間保存しておかなければなりません。
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鑑定評価の依頼はどのようなところからくるの?
鑑定評価の依頼元は大きく分けて公共機関と民間の会社に分けられます。
鑑定評価の依頼元
- 公共機関 … 国(国土交通省や税務署など)、地方公共団体、独立行政法人
- 民間企業 … 金融機関、デベロッパー、一部上場企業など
不動産鑑定業の特徴として、公共機関の仕事の割合が多いというものがあります。
この傾向は地方ほどより強く、地方であれば仕事の7~8割が公共機関からの受注になります。
後で詳しく解説しますが、公共機関からの評価依頼の中には公的評価といって継続的に毎年評価依頼がくるものがあります。
継続的に仕事を受注できる見通しがたちやすいため、不動産鑑定士は独立しやすい資格だとよく言われます。
とはいえ、最近は公共機関からの仕事も減少傾向にあるので、地方にいても食えない不動産鑑定士も一定数います。
都市部、特に東京では公共依存度は低く2割程度です。
仕事としての多様性、難易度は断然民間依頼の仕事の方が高いため、特に若いうちは都心部の大手鑑定事務所で修業するのがおススメです。
公的評価とは?
継続的に仕事を受注できる公的評価というものが不動産鑑定士にはあると先ほど書きました。
では、公的評価とはどのようなものなのでしょうか。具体的には次の4つです。
公的評価の種類
- 地価公示
- 地価調査
- 相続税標準地評価
- 固定資産税標準宅地評価
どのような価格なのか、何をみればその価格を調べることができるかについては、別記事「土地価格・地価・相場の調べ方。土地価格査定について解説します。」にて解説しています。
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土地価格・地価・相場の調べ方。土地価格査定について解説します。
土地価格・地価・相場。それぞれ言い方はありますが、不動産の価格、特に土地の価格を調べるにはどのような方法があるでしょうか? 私は不動産鑑定士という不動産の価格に関する専門家をしていますが、一般の方は意 ...
地価公示
3月中旬頃になると新聞報道で、「銀座の土地が上がった」だの、「3年連続土地価格上昇」だのと騒がれるのを覚えているでしょうか?
これは国の事業である地価公示の結果が発表されるのが3月中旬なので、それに合わせて新聞報道などで発表がされるのです。
平成29年の地価公示では、全国26,000地点の標準地を不動産鑑定士が評価し、土地鑑定委員会の決定した価格が発表されました。
国の委嘱が受けられれば毎年仕事を受注することができます。
地価調査
地価公示に似たものに地価調査があります。
地価公示は地価公示法に基づき国が事業を行いますが、地価調査は国土利用計画法の施行令に基づき都道府県が事業を行います。
地価公示と地価調査の違いについて簡単にまとめます。
地価公示と地価調査の違い
- 地価公示は国が依頼者、地価調査は都道府県が依頼者
- 地価公示は1月1日の価格を出す。地価調査は7月1日の価格を出す
- 地価公示は1地点を2人の不動産鑑定士で評価、地価調査は1地点を1人の不動産鑑定士が評価
相続税標準地評価
路線価という言葉を聞いたことがある方が多いと思います。
路線価とは、土地に相続税を課税するときに評価の基礎となる土地の単価を地図上に示したものです。
国税庁のホームページでは、毎年路線価が公開されており、課税のために用いられているほか、不動産屋などが土地価格査定のための目安として使われています。
この路線価の評価も不動産鑑定士が関与しています。
最近は路線価地域が減少しており、相続税路線価の収入は減ってきていますが、毎年評価依頼があることから大事な収入源の一つです。
固定資産税標準宅地評価
資産に対する課税には、相続税のほかには固定資産税があります。
この固定資産税の土地価格も不動産鑑定士の鑑定評価によって決定されます。
相続税路線価と違い評価の見直しが3年に1回と少ないですが、評価地点(標準宅地)の数が相続税路線価と比べて多いために大きな収入源となります。
地価公示、地価調査、相続税標準地評価は、ある程度均等に評価地点数が依頼者により割り振られますが、固定資産税は市町村が依頼者のため、地域によって受託形式は様々です。
古くからの鑑定士が受託しているケースも多く、新しく地域で開業してもなかなか仕事を受注できないという話もよく聞きます。
固定資産税の価格は財団法人資産評価センターの運営する「地価マップ」により閲覧することが可能です
URL 全国地価マップ
この4つの公的評価は特に地方で不動産鑑定士を開業する場合、大きな収入の柱となります。
その他の公共の鑑定評価
4つの公的評価のほかにも公共機関から依頼される鑑定はあります。
例えば道路を新設する場合、用地を買収する必要が出てきますが、用地買収の土地価格の根拠となるのが不動産鑑定士の不動産鑑定評価額です。
また、裁判所がおこなう競売では、不動産鑑定士が評価人として選ばれ、3点セットの一つ「評価書」の作成を担います。
競売評価は、昔は不動産鑑定士にとっての大きな収入の柱でしたが、不動産競売事件は年々減少しており最近では15年で3分の1まで減少してしまいました。
不動産競売事件の減少については、別記事「不動産競売事件の減少が続いている?司法統計のデータをまとめてみた。」で、事件数をまとめています。
このとおり、公共依頼の評価は将来的には楽観的な展望が見えないものの、依然として不動産鑑定士にとっての飯のタネとして大事な仕事となっています。
不動産鑑定士の仕事
不動産鑑定士の仕事は、不動産を鑑定評価すること。そして不動産鑑定評価書を作成して依頼者に納品することです。
具体的には、不動産を調査しに行く現地調査と、資料を収集・分析、パソコン作業などの社内で行う事務的な作業に分けることができます
不動産鑑定士の団体が、鑑定評価業務の平均的な作業量を調査したレポートがありますが、平均的には土地(更地)の鑑定評価書を作成するのに1通あたり、約6日(1日7時間)かかるとされています。
参考 日本不動産鑑定士協会連合会|不動産鑑定評価の業務について
もう少し具体的に鑑定評価書作成までの流れを紹介しましょう。
土地の査定の中ではもっとも容易とされる低層の住宅地の土地のみ(更地評価)の作業量です。
手順 | 作業内容 | 時間 |
1 | 基本的事項の確定・依頼受付など | 3時間18分 |
2 | 処理計画の策定 | 1時間39分 |
3 | 対象不動産の調査・確認(現地) | 11時間15分 |
4 | 資料の収集および分析 | 7時間57分 |
5 | 評価 | 7時間08分 |
6 | 試算価格の調整 | 2時間16分 |
7 | 鑑定評価報告書の作成 | 6時間10分 |
8 | 検算・審査 | 2時間31分 |
9 | 鑑定評価書作成等 | 3時間20分 |
10 | 納品・鑑定評価書内容説明 | 1時間50分 |
合計 | 41時間18分(5.9日) |
あくまで平均的な想定作業量です。
遠隔地への出張の場合は現地確認に数日かかることもありますし、1時間程度で調査して帰ってこれてしまう物件もありますね。
公的評価の場合、多くの不動産鑑定士が集まって価格検討をする作業が増えますが、基本的には不動産の調査をしているかパソコンの前に座って作業をするという毎日を過ごしています。
不動産鑑定士になるには?
不動産鑑定士の日常をそのまま説明していますので、不動産鑑定士にあこがれを持ってくれる人がどれほどいるかは分かりません。
また、不動産鑑定士になるには難関資格である不動産鑑定士試験をパスする必要があります。
最終の合格者は毎年100名程度、最終の合格率は5%程度と20人に1人しか合格しないのが不動産鑑定士試験です。
合格までに必要な勉強時間は1800時間~2300時間と専門学校のホームページなどには記載されています。
不動産鑑定士の難易度、合格率については、別記事「不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度」で詳しく解説しています。
不動産鑑定士になりたい!
と、思った方は是非読んでみてください。
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不動産鑑定士試験の受験者数、合格率の推移と難易度(平成30年最新)
不動産関連資格の中で最難関と言われている不動産鑑定士試験。 平成30年10月19日(金曜日)に、監督官庁である国土交通省から平成30年不動産鑑定士試験合格者の発表がありました。 土地鑑定委員会では、8 ...
[おススメ書籍] 不動産鑑定士の仕事図鑑
不動産鑑定士を知る本としては、日本不動産鑑定士協会連合会が編集として参加している「不動産鑑定士の仕事図鑑」がおススメ!
国土交通省も鑑定士増対策!
不動産鑑定士の監督官庁、国土交通省も減少傾向にある不動産鑑定士資格を盛り立てようとしてくれています。
参考 不動産鑑定士パンフレット「私たち不動産鑑定士です」を国土交通省が作成
士業とは?士業には何がある?などと、士業についてまとめた記事「士業とは?士と師の違い、8士業とは何か?士と師のつく仕事をまとめてみました。」も書いています。是非読んでみてください。
士業とは?士と師の違い、8士業とは何か?士と師のつく仕事をまとめてみました。
あなたの年収は適正ですか?
不動産鑑定士としての、あなたの年収はいくらでしょうか?
500万円ですか?600万円ですか?
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